23.選択に潜む落とし穴:前編
文字数 2,110文字
すっかりゲームにハマったらしいレン子先輩は、翌日も新たな問題を出してきた。
相変わらず突拍子もない設定だが、もう慣れた。
三人というのはもちろん、レン子先輩、石橋先輩、ギャル子のことである。
そう、僕がこのパラ研に入部したての頃、こっそり教えてくれたのは石橋先輩だった。
そう呼ばれるくらい変な人だが、取って食ったりはしないから安心してほしいと。
――実際は、別の意味でまったく安心できない人だったが。
レン子先輩に鋭く睨まれ、石橋先輩は縮みあがる。
なんだかんだ言っても、飼い犬のほうが立場は上らしい。
ひと睨みして気が済んだのか、すぐにいつもの真面目な表情に戻るレン子先輩。
あまりにも茶化さず言うものだから、本当に穴が開きそうで怖い。
僕が言いたかった続きを、石橋先輩が言ってくれた。
それだと、今まで三分の一の確率だった正解が、実質二分の一になってしまう。
いくらヒントとはいえ、やりすぎではないか。
しかし当のレン子先輩は、相変わらずケロッとしていて。
そうだ、そうだった。
一度の選択では終わらないのが、パラドックス問題の特徴とも言える。
今突きつけられた選択は、昨日の『交換のパラドックス』と少し似ていた。
そのままでいることと、選択を変えること。
一体どちらが得なのか……?
そう思っても口に出せないのは、きっと違うからだ。
そんな単純な問題であったなら、レン子先輩が出題するはずがない。
どこかに引っかけがあるはずだった。
念のため確認すると、レン子先輩はあっさりと頷く。
それはつまり、自分の感覚と実際の確率が異なることを示していた。
そして、似たような問題があったことを思い出す。
自分以外の処刑予定者ひとりの名前を聞き、自分が処刑される確率はさがったと、勘違いをした話だった。
実際には、過去に決定された確率は変わらない。
事実がひとつ明らかになったところで、処刑されるのは三人のうちふたり――三分の二の確率である。(11~12話参照)
その考えかたを、今回の問題にも応用できないだろうか?
僕は必死に脳内をフル回転させる。
ギャル子が珍しくまともなことを言った。
レン子先輩から「悪魔じゃない」と告げられ、嬉しいのかもしれない。やたら上機嫌だ。
……いや、実際には悪魔じゃないのは全員そうなのだが。
レン子先輩か石橋先輩が悪魔である可能性は、それぞれ三分の一。
今までの話から割り出すとそうなるのだが、実際にはこれが間違いであることを、レン子先輩からすでに指摘されている。
なぜなら、レン子先輩は明確な答えがあると言った。
つまり、確率的にはどちらかが上まわるはずなのだ。
だが、いくら考えても答えは出てこない。
しまいには唸り声をあげてしまった僕に、レン子先輩はもう一度手を差し伸べた。
(続く)
Q.悪魔はレン子か、石橋か。どちらの確率が高いと思いますか?
ぜひ考えてみてください。