28.偏らない偏り:後編
文字数 2,104文字
あっさりと否定され、コントのようにガクッとなってしまった。
僕は気を取りなおし、なんとかレン子先輩の真意を探ろうとする。
手のなかの紅茶は、まだ少し残っている。
でも、これ以上飲む気にはなれなかった。
そんな僕に、レン子先輩はいつもの真顔で告げる。
放置していない。
外からなんらかの力を加えた場合は、エントロピー増大の法則に当てはまらない。
僕はそう言おうとした。
だが、レン子先輩のほうがずっとうわ手だった。
遮って告げられた言葉に、ハッとする。
試したことはもちろんないが、想像はついた。
僕の答えに軽く頷いて、レン子先輩は続ける。
なんとか応えても、攻撃は終わらない。
それからまっすぐに、僕の目を見た。
今までそんなこと、一度も考えたことがなかった。
レン子先輩に出会ってから、何度そう感じたことだろう。
思いもよらない視点から斬りこんでくる。
恐ろしい魔女。
レン子先輩の言うように、それはきっと、そのほうがわかりやすいと説明する側が思っているからなのだろう。
僕だって、説明しろと言われたら、同じように説明するに違いない。
だがレン子先輩は、それに警鐘を鳴らしているのだ。
レン子先輩は満足そうに頷くと、不意に僕から視線を外した。
ポツリと呟かれた言葉に、僕は目を見開く。
今日のレン子先輩は、どこか変だ。
いつも以上に暗く思えるのは、もしかしてふたりきりだからなのだろうか。
だとしたら、責任を感じてしまう。
どう応えたらいいかわからずに困っていると、また唐突に、レン子先輩が話題を変えてくる。
さいわい即答できる質問で、戸惑う必要もなかったので助かった。
僕だって、好きで根暗な引っ込み思案になったわけじゃない。
前向きに生きたい気持ちだってあった。
でも常に、裏切られてきたのだ。
自分から訊いたくせに、素っ気ない返事のレン子先輩。
僕はひとつツバを呑みこむと、勇気を総動員して口を開く。
訊かずにはいられなかった。
僕と似ていたから。
いつも部室に籠もっていたから。
七年も大学にいるから。
――僕を、選んでくれたから。
きっとそれが、僕の役目なのだろうと思った。
今日他のふたりがいないのも、きっとそのためなのだと。
核心に迫る。
僕の鼓動はすっかり速まっていた。
レン子先輩はもう一度、僕を見返す。
感情の見えない、ただ真面目さだけがわかる顔で。
これまでの人生すべてを否定したような言葉に、背中がゾクリとする。
だがレン子先輩は、世間話をするような気安さで、続けた。