7.危険な気づかい:前編
文字数 2,555文字
僕がパラドックス研究会に入ってから、一週間が過ぎた頃。
例によってレン子先輩が、突然こんなことを言い出した。
そのときの僕はといえば、ありがたいような、申しわけないような、とにかくこそばゆい気持ちになった。
そんなことを言ってもらえると、まったく思っていなかったからだ。
一方で、それを聞いた他のふたりは、なぜか完全に動きをとめていた。
よっぽど驚くべきことらしい。
(……でも確かに、考えてみればレン子先輩っていつも部室にいるなぁ。部室の外にいるのを見たのは、それこそ勧誘されたときくらいだ。そんな相手に、わざわざ部室から出てもらうなんて、やっぱりちょっと申しわけない……)
そう感じた僕は、当たり障りのないように断ろうとした。
そもそも僕自身、休みの日は家に引きこもりたいタイプなのだ。
三人の言葉は、たった三文字で斬られた。
レン子先輩はいつもの真顔で、続ける。
頑なに、譲らない。
僕ら三人は、自然と顔を見あわせた。
どうやら他のふたりも、決意したようだ。
――というわけで、僕らは日曜日に近所の公園へ出かけることになった。
◆ ◆ ◆
そこそこいい年齢の四人が、そこそこ小さな公園のベンチに座り、お菓子をつつきあっている。
その不可思議な状況に耐えられなくて、僕はついに言ってしまった。
歓迎される側なのにそんなことを言って、怒られるかと思ったが、意外にも石橋先輩は同意してくれる。
一応、想像してみようと試みた。
パーティープランかなんかでおいしそうな料理を囲み、みんな笑顔で乾杯する――
そう納得して隣のレン子先輩を見やると、一心不乱に魚肉ソーセージにかじりついていた。
わざわざ持参してきたらしい。
思わず、犬って魚肉ソーセージも食べるんだ……と本気で考えてしまった。
話題らしい話題はなかったが、それでも「うぇーい」みたいなノリについていけない僕にとって、このまったり感は相応しいもののように感じた。
めちゃくちゃなりゆきで入ったサークルではあったが、ちゃんと向いていたのかもしれないと、改めて思う。
不意に指摘され、顔をあげた。
その頬に、ポツリと雨粒が落ちてくる。
レン子先輩が指差した、なかに入って遊ぶタイプの遊具に、全員で移動する。
などと会話をしているあいだにも雨は強くなってきて、遊具に着く前に結構濡れてしまった。
だがそのとき、僕の脳裏にあったのは、雨が冷たいだとか、風邪を引きそうだとか、そんなことではなくて。
ギャル子は目をぱちくりとさせるが、つまりそういうことなのだろう。
探るように訊ねてみたら、レン子先輩は悪びれなく答えた。
そこでキレたのは、石橋先輩だ。
ふたりは腐れ縁だと言っていたが、どうやらお互いの親とも繋がりのある仲らしい。
幼なじみというやつなのだろう。
――と、僕が納得しているあいだに、レン子先輩がまた不思議なことを言い出す。
指摘されると、ギャル子はモジモジしながら答えた。
本人がいる前で盗撮とか、ちょっとわけがわからないが、それがいつものギャル子なのだろう。
僕に深く考える余裕はなかった。
なぜなら、覚悟をしておかなければならなかったからだ。
図星だったからこそ、少々慌ててしまった。
そこまでの確認が終わると、レン子先輩はひとり、満足そうに頷く。
(続く)
Q.レン子の言う『実験』とはどんなものなのか?
ぜひ考えてみてください。