10.漠然とした囚人:後編
文字数 2,105文字
レン子先輩はさっき、「あなたたちの場合は、ジレンマでもなんでもない」とも言っていた。
つまり、答えはその逆ということになる。
(石橋先輩とギャル子の関係って、僕からしたらレン子先輩を挟んだ特殊な三角関係に見えるけど……。でも、けっして仲が悪いわけではないし、それどころか、実はパラドックスにあまり興味がないという点が共通している。お互いそれなりに信頼もしているだろう――)
そこまで考えたところで、閃いた。
首を傾げた石橋先輩に、僭越ながら説明する。
取調官の役割を与えられたものの、やることがなかった僕は、喜んで仕切りになった。
僕が位置に着くと、軽く頷いたレン子先輩が手を叩く。
なんだかんだ言ってもレン子先輩に従順なふたりは、少し戸惑った表情をしながらも、それぞれに手をあげた。
左手――黙秘だ。
まったく考えもしなかったのか、ギャル子は今さら頭を抱えていた。
一方の石橋先輩は、余裕の表情で答える。
そのオチまで見届けて、僕はレン子先輩が言いたかったことを完全に理解した。
囚人のふたりが、相手をよく知る立場であればあるほど、悩む必要がなくなっていく。
なぜなら、悩まずともわかるからだ。
誰しも疑心暗鬼に陥る可能性はあるが、少しでも相手のことを思う気持ちがあるならば、黙秘を選ぶしかない。
揃って釈放されることは最初からありえないのだから、次に軽い刑期一年を目指すことが、ベストの選択になるのだ。
僕はそう言っていたレン子先輩を思い出して、改めて『囚人』という言葉だけではまるで表し切れていない事実に、気づいた。
もしこの囚人をきちんと定義するならば――『(赤の他人同士である)囚人のジレンマ』となるのかもしれない。
さらに斬りこんできたレン子先輩の言葉に、口喧嘩をしていたふたりも静かになる。
確かにそれでは、ジレンマは発生しない。
相手を疑う、疑わない――そんな心理さえ無視して、どちらも希望を叶えてしまうなんて。
なるほど、わかったぞ。
もっと正しく言うならば、『(できれば釈放されたい、それが無理ならせめて刑期を短くしたい、そんな赤の他人同士である)囚人のジレンマ』になるのだろう。
……うん、長いな。
僕がアホなことを考えているうちに、石橋先輩が鋭く踏みこんだ。
きっと超ウルトラスーパー屁理屈斬りタイムを期待してのことだろう。
しかし当のレン子先輩は、肩を竦めて答えた。
石橋先輩とギャル子に視線を送り、言い放つ。