19.立場がパラドックスを殺す:前編
文字数 2,141文字
ある日部室に行くと、石橋先輩とギャル子が僕に駆け寄ってきた。
部室の最奥では、いつものようにレン子先輩がどっしりと座って構えていた。
目の前の長机には、ふたつの箱が置いてある。
『ゲーム』という単語には似合わない、実に真面目な表情で言われた。もっとも、これもいつものことだが。
なるほど、それでいつも以上に歓迎されているのか。
僕はもう一度、長机に置かれたふたつの箱に目をやる。
どちらも百円均一で売っているような、プラスチックの小さなケースだった。パカッと蓋が開くタイプだ。
ただし、片方は半透明で中身が見えており、どうやら千円札が一枚入っているらしい。
もう片方はまったく透けておらず、まっ黒――まさにブラックボックスだった。
選択肢は、あってないようなものだ。
僕は覚悟を決めて、レン子先輩に説明を求める。
奇妙な話だった。が、なにか裏があるのかもしれないと、僕は慎重に考えはじめた。
まず、確実に千円札を手に入れたいなら、当然両方を開けるべきだ。もしかしたら、黒い箱に一万円札が入っている可能性だってある。
逆に、一か八かのスリルを味わいたいなら、黒い箱だけを狙うべきだ。ただし、外れた場合は一銭も手に入らない。
ジト目で訊ねたら、あっさりと白状した。
さすがの僕も、段々と混乱してくる。
横からふたりが説明を追加してくれた。
どうやらふたりは、レン子先輩にズバリ思考を読み取られてしまったらしい。
……まあ、わかりやすい性格をしているのは、確かなのだが。
しかしこれで、黒い箱に一万円札が入る条件が、わかった。
一万円札は、レン子先輩が『幹太は黒い箱だけを開けるだろう』と予想したときに、入っている。
だから僕は、レン子先輩がそう予想したのかを、予想すればいいのだ。
……まあ、相当にわかりにくい性格をしているのは、確かなのだが。
レン子先輩が自信たっぷりに見えるのは、なぜだろう。
気持ちでもう負けている気がした。
だが、騙されてはいけない。
レン子先輩が本当に人の心を読めるなら、僕は全力で『黒い箱を開ける!!』と決意し、開ければいいだけだ。そうしたら一万円札が手に入る。
しかし、実際にはそうではない。
レン子先輩は予想しかできない。
だから、外れる可能性だってあるのだ。
非常に正直なふたりである。
少しは焦っているのだろうか?
しかしレン子先輩の表情は、いつもと変わらない。
推理を口にして反応から予想する作戦は、どうやら無理みたいだ。
むしろレン子先輩は、なかなか決めない僕に痺れを切らしたようで、強い口調で言った。
(続く)
Q.あなたならどちらを選びますか?
ぜひ考えてみてください。