15.あなたが決めればいい:前編
文字数 2,220文字
僕がそう訊ねたのは、単純に、もしなにかやるならば手伝いたいと思ったからだ。
普段からやっていないのなら、無理してやる必要もない。
僕はそう思ったのだが、レン子先輩は違ったようだ。
石橋先輩はそう毒づいたが、ギャル子の反応は少し違っていた。
なんだかんだで、ギャル子は僕のことを認めてくれているらしい。
謎のライバル認定もあったし、必要とされている事実は僕の心を少し上向きにさせていた。
誘うように発したレン子先輩に、乗っかってみる。
どんな難問が飛び出すかと思いきや、それは斜め上の問いだった。
言いながらレン子先輩が両手で描いた砂山は、相当に大きい。
頭のなかで想像してみても、それ以外の答えは見つからない。
砂山と言われて思い浮かぶのは、子どもの頃に砂場でやった棒倒しだ。
あれくらい大胆に砂を取り去らなければ、砂山は砂山。
もちろん棒も倒れない。
――もっとも、僕の棒倒しはひとり遊びだったのだが。
僕ら三人の意見を聞いて、レン子先輩はまとめる。
揃って頷いた。
続いてレン子先輩がとったジェスチャーは、最初のものよりもかなり小さかった。
小さいが、まだなんとか山の形をしているようだ。
不安を口にした僕に、レン子先輩はしれっと続ける。
『砂山からひと粒の砂を取り除いても、砂山は砂山』という前提のもとで最後まで進むと、おかしなことになってしまうのだ。
しかし確かに、レン子先輩の言うとおりなのだ。
前提は間違っていないはずなのに、何度もくり返すことによっておかしいことになってしまう。
実に不思議な現象だ。
試すように問いかけてきたレン子先輩に、僕らはそれぞれに頭を抱える。
――と言っても、他のふたりは悩んでいる振りをしているだけのようだったが。
(落ちついて考えよう。前提が途中からおかしくなるということは、前提自体が実は最初から間違っている可能性も、考慮しなければならないんじゃないか? 『砂山からひと粒の砂を取り除いても、砂山は砂山』――本当にそうだろうか? そもそも、砂山ってなんだ? 山の形をした砂は、すべて砂山なのか? 大きくても小さくても? 砂山からひと粒とったとき、砂山でなくなる瞬間というものが、あるのだろうか?)
そんなふうに考えていた僕は、ハッと気づいた。
このくだりも、なんだか様式美になってしまった。
レン子先輩は相変わらずの真面目顔で、解説を始める。
突然の要望に、部室の時間が一瞬とまった。
なんとか言葉を絞り出した僕に、レン子先輩は容赦なく告げる。
(続く)
Q.あなたにとって『砂山』は何粒以上ですか?
ぜひ考えてみてください。