3.真の嘘つきはこの世に存在しない:前編
文字数 2,176文字
僕が部室に入ると、寸劇はもう始まっていた。
昨日と同じ席に着いたレン子先輩が、斜め向かいに座っている石橋先輩を指差す。
事態が飲みこめずに入り口で固まっていると、やっぱり昨日と同じ場所に座っていたギャル子(呼び捨てにしろと言われた)が手招きをしてくれた。
ギャル子に戸惑った様子がないところを見るに、これがこのサークルのいつもの状態なのかもしれない。
つまり、僕も慣れるしかないのだろう。
僕が空いているパイプ椅子に腰かけると、すかさずレン子先輩が声をかけてくる。
自分史上最高に頑張って茶化してみたが、どうやらレン子先輩には受けなかったようだ。
まったく変わらない真顔で返される。
飼い主は今日も大変そうだ。
長い劇なら「無理!」と叫ぶところだが、今のは一瞬で終わるほどに短かった。
説明するのは簡単だ。
完全に混乱してしまった僕を見かねて、石橋先輩が助け船を出してくれる。
すっかり耳になじんだ言葉が、さっそく出てきた。
続いてギャル子も手をあげる。
少しずつ全容が見えてきた。
僕は落ちついて考えてみる。
まず前提として、『石橋先輩=嘘つき』であることに間違いはない。
だが次に、その石橋先輩自身が「俺は嘘つきだ」と言ったことにより、状況は変わってしまうという。
そう、この矛盾こそが、パラドックスなのだ。
石橋先輩が、本当は嘘つきなのか正直者なのか、わからなくなる。
同時に僕は、発言するという行為そのものに、恐怖さえ感じていた。
それは今までまったく考えたことのなかった視点だったからだ。
白黒つけられない、ありえないはずのことが、それでも言葉にできてしまうんだ。
つい考えこんでしまった僕をよそに、レン子先輩は話を進めていく。
と、一度は頷いたレン子先輩だったが――
瞳の奥が光ったように見えたのは、幻覚だろうか。
昨日も見た流れだ。
思わず合いの手を入れると、レン子先輩は身体を前に乗り出して言った。
(続く)
Q.レン子が「納得いかない」こととは一体なんなのか?
ぜひ考えてみてください。