FF7でわかるエコテロリスト②(モンキーレンチ・ギャングたち)

文字数 4,316文字

もともと環境運動は、暴力に頼らない平和主義の活動から始まったんだね。

政治家や議会に陳情したり、裁判に訴えたり、地道な活動をしていた。

そんな非暴力主義の抗議活動に不満を持つメンバーが集まって、新しいグループを作ったわけだ。
非暴力主義のルールを大きく曲げる行動によって「グリーンピース」を追放されたポール・ワトソンが、1977年に創設したグループが「Sea Shepherd」(シーシェパード、海の警察犬)です。
「シーシェパード」って、日本の捕鯨船を直接攻撃するグループですよね?

ニュースで見たことあります。

そう、「シーシェパード」は「より大きな法に適うのなら、現実の法律に反してもかまわない」という立場をとっているのよ。
それで、海洋野生生物保護のために、捕鯨船を攻撃し撃沈するという戦術をとっているんですね。

「シーシェパード」は日本の捕鯨船に対してだけでなく、マカ族など先住民のアザラシ狩りや「生存捕鯨」に対しても暴力的な抗議を行っている。


「グリーンピース」は、「シーシェパード」が「漁民や捕鯨船の船員の生命を脅かすテロ組織」であると公に批判している。

「反捕鯨勢力は危険な海賊的テロリスト」というイメージを日本人に植えつけたことで、捕鯨に対する日本国内の支持が集まり、捕鯨を継続する決意をむしろ強化させた、と言われているわ。
まさに『北風と太陽』ですね。
「シーシェパード」の攻撃的戦術は、先住民や日本人の反発を招いただけで、逆効果だったわけですね。
「シーシェパード」と同じく急進的なエコテロ組織と言えば、デイヴ・フォアマンが1980年に設立したEarth First!」(アース・ファースト)が最も有名です。

「アース・ファースト!」は原生自然保護を目的として、森林伐採やダム建設を阻止するための道路封鎖や土地の不法占拠、伐採される木の根元で座り込みなどを行っている。


1990年、アリゾナの揚水発電所の送電線を破壊する作戦の後、組織に潜入していたFBI捜査官によって5人のメンバーが逮捕され、破壊工作には直接加わっていなかったデイヴ・フォアマン自身も逮捕された。


1998年には北カリフォルニアの森で伐採を阻止するため、伐採現場に立ち入った「アース・ファースト」の活動家が、命を落とす事件も起こっている。

通常であれば、伐採の中断につながるはずの抗議活動だったが、伐採者はかまわず樹齢300年以上の大きな木を切り倒し、木の下敷きとなった活動家は即死した。

「アース・ファースト」のロゴマークは、モンキーレンチですね。
なぜモンキーレンチなのかと言うと、1975年に刊行されたエドワード・アビーの「The Monkey Wrench Gang」(モンキー・レンチ・ギャングという小説の影響があるの。

この小説は、英語で「モンキーレンチ」という言葉が、自然を守るための破壊工作活動や法律違反行為などを意味するようになったほど、後世に影響を与えた作品なのよ。


「モンキーレンチ」は伝統的に労働争議における産業破壊行為の象徴だったけど、エドワード・アビーは新しい意味を与えたと言えるわね。

森林伐採に反対するとしても、穏健な抗議方法としては、公開集会(デモ行進)や、議員や議会に対する働きかけ(陳情・誓願署名)、開発許可の差し止めを訴える裁判などがありますよね。

伐採現場に直接行って、木の根元に座り込み、自分の命をかけて伐採を思いとどまらせようとする行為は、非暴力主義の抗議方法だと思うよ。

その座り込み活動で命を落とす危険があるのは、抗議者自身だから……

でも、夜中に伐採現場に忍び込んで、伐採のための重機や木材運搬のための車両を破壊したり、伐採者を殴ったり、木材加工工場の爆破を企てたりしたら、明らかに犯罪だよ。
暴力的な抗議方法を用いるモンキーレンチ・ギャングたち、すなわちエコテロリストは、どんな言い訳をしたって犯罪者であることには変わらないわね。

1990年代以降、「アース・ファースト」はアナーキストの政治哲学の影響が強くなり、「Earth Liberation Front」(アース・リベレーション・フロント)という分派が創設される。


創設者のデイヴ・フォアマンは妻ナンシーとともに1990年にグループを脱退し、「アース・ファースト」は分裂した。

脱退後にフォアマンは、若い環境活動家たちの「左翼的で社会正義を重視するアプローチ」を批判した。一方、残ったメンバーたちは「悔い改めない右翼の悪党」とフォアマンを罵ったのだった。

FF7では、「アヴァランチ」のメンバーたちが、ミッドガルの上層市民を「無自覚な加害者」とみなしていて、人々の安全を脅かす破壊活動を正当化する主張をしていますね。
現実の「アース・ファースト」は送電線破壊作戦を企てたけど、電力会社に損害を与えるだけじゃなくて、多くの人々が被害を被るよね。

もし自家発電設備がない病院で、突然、電力の供給が止まったら、命を落とす患者さんも出ると思う。

送電線破壊作戦の背景には、日頃から電力の恩恵を受けている一般市民、つまり「無自覚な加害者」をこらしめてやろう、という意図があるんじゃないかな。

FF7では、「アヴァランチ」の爆弾テロを実行したメンバーが、事件に加わらなかったメンバーについて「思想が揺れている」とか「爆弾闘争にも乗り気じゃない」と言う場面があるの。


革命派グループの内部で「反革命」とレッテルを貼ったメンバーを攻撃したり、殺害まで至る事件は、現実の日本国内で何度も起きているのよね。

この先、神羅カンパニーは魔晄炉爆破事件に対する報復攻撃を行い、「アヴァランチ」のメンバーとスラムの住民たちを殺害していくのよ。

爆弾テロを実行したメンバーが命を落とす場面で、「わたしの爆弾、大勢殺したからね。償わなくちゃ」と言って、自分の死を受け入れる台詞がすごく印象に残りました。(上の動画44:10あたりから)

大江健三郎は、1988年に刊行された『キルプの軍団』の中で、革命派グループで指導的立場だった登場人物の内省の言葉として、このように書いているわ。
おれは実行犯に加わらなくても、自分が党派に属している以上、この手で殺したと同じ、と感じる側の人間だからね。そこで相手の党派の人間を殺せばね、やがて自分が殺されるか、自殺するまでは、勘定はゼロにならない。借り方かい、貸し方かい? ともかく償いがたい負担を担いこむとね、おれはそう考えてきたんだよ。繰りかえしていうならばさ、対立党派を殺すことに、自分が賛成の票を投じるのは、よく考えた上での、論理的に正しい行為なんだ。しかし敵をひとり殺したならば、こちらの味方が、というのじゃなくてね、ほかならぬ自分が殺されるか・自殺するかするまで、決して計算は合わない、と考えているわけさ。

(大江健三郎『キルプの軍団』講談社より)

うーん、さすがノーベル文学賞作家、深いですね。
「アヴァランチ」のメンバーが死の間際に語った台詞は、この大江健三郎の考え方をシンプルに言っているように感じたわね。

FF7って、とても子ども向けとは思えないストーリーですね。

発売当時の1997年というのは、まだ9・11同時多発テロ事件は起こっていなくて、地下鉄サリン事件はすでに起こってしまっている世界なんですね。

FF7の「アヴァランチ」は、現実の「アース・ファースト」や「シーシェパード」、日本赤軍などをモデルにしていたのではないかと思うわ。

日本赤軍って、テルアビブ空港乱射事件などの数々の凶悪犯罪を起こしたグループですよね。
日本赤軍は、1974年にシンガポールでシェル石油の製油所を爆破する事件を起こしているの。

火力発電所や原子力発電を標的とする爆弾テロが起こるかもしれない、とシナリオライターが考えるのは、自然な発想よね。

FF7の神羅カンパニーは電力会社だけど、なぜか私設軍隊を保有しているんですよね。

主人公クラウドは神羅カンパニーの元私兵で、若いのに戦争後遺症のようなフラッシュバックに悩まされていて、痛々しい……
神羅カンパニーはロックフェラー財閥をイメージしているのかなと思うわね。

石油企業のスタンダードオイル社から始まったロックフェラー家は、19世紀から20世紀にかけて、金融や軍事産業などさまざまな企業を傘下に収め、市場を独占していった。


世界最初で最大の多国籍企業となったスタンダードオイル社はその後、反トラスト法によって解体されたが、石油メジャーのエクソンモービル社は直系の子孫と言われている。

2016年にロックフェラー・ファミリー・ファンドは化石燃料関連事業への投資を中止し、保有するエクソンモービル社の株式を売却すると発表し、世界を驚かせたのよ。
化石燃料や武器、タバコなどから投資資金を引き揚げることは、SDGsの目標達成に貢献する取り組みですね!

そう、環境や社会や健康に害を及ぼす企業から投資撤退する取り組みは「ダイベストメント」と呼ばれていて、世界で広がりつつあるわ。

最初の話題に戻ると、名画にトマトスープをぶちまけた「ジャスト・ストップ・オイル」はその名の通り、反石油を掲げるグループでしたね。

名画にトマトスープを投げつけたり、ガソリンスタンドのポンプを破壊したりすることで人々の注目を集めれば、活動資金集めには役立つんだろうね。

そもそも、反石油を目的とする活動が、どうして名画を傷つける行為につながるのかな?
「ジャスト・ストップ・オイル」の活動家や支持者たちの間で、反権力・反権威の意識が強いのではないかと思うわ。
たしかに反権力の意図がなければ、ロンドン警視庁の回転看板にスプレーをかけたりしないですよね。
ゴッホが標的に選ばれたのも、反権威の意味合いがあるのかな?
石油企業は世界の富を独占しているイメージがある。

同じように、ゴッホにはオークションで超高額取引される絵画という悪いイメージがあるよ。

反石油団体の人々が信じるストーリーの中では、反石油の目標達成とゴッホの絵を傷つける行為の整合性がとれているのでしょうね。
うーん、名画を傷つけることが、気候変動対策に消極的な石油企業の方針を転換させるほどの力を持つのか疑問です。
目に見える派手な事件は起こらないけど、世界の投資家たちのダイベストメントの動きの方が、反石油運動として、はるかに効果がある取り組みではないかと思うわね。
初出:2022/10/22

FF7リメイクが公開された年に書いたつぶやき(2020/9/22)に、つい最近の事件を受けて大幅加筆し、再掲しました。


2024/04/21 チャット版にリライトしました。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

南津海(なつみ)ちゃん


社会科研究部の部員。好奇心旺盛。

寿太郎(じゅたろう)くん


社会科研究部の部員。南津海ちゃんとは幼なじみ。

せとか先生


社会科研究部の顧問。専門は世界史。

みはや先生


専門は音楽。せとか先生と仲良し。

考えるカエル


『バイブル・スタディ・コーヒー』から出張

本を読むウサギ


『バイブル・スタディ・コーヒー』から出張

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色