第７５話　とんでもない世界の話

「はい、これが今の二回の動きを比較したものです」
大和くんが冷静にいまの二回の高崎くんの動きを表示させた。
彼のシステムはもちろん数値でも確認できるが、目視でもその差がわかるようにしてあった。
これは大事なことで、データサイエンスはデバック、つまり間違い探しが難しいと言われていて、こういうものが大事になる。

「おお、すごいんだね！！」
ヒカルちゃんが言う。
高崎くんの動きにも、大和くんの仕組みにも驚いているようだった。

「面白いよね」
僕が言う。
そう、このシステムはおもしろい。
普通の人では見えない世界のことがわかる。

「同時に再生しますね」
大和くんは言う。
彼のシステムは二つの動画を同時に再生することができた。
その機能は必須と言えてそれができないと類似度を出すことができない。

「ほぼ同じ動きです」
大和くんが言う。
たしかにそれは僕たちでも彼のシステムを見ればわかった。
二つの高崎くんの攻撃を重ねてゆっくり見ることができた。まったく同じように動いている。

「すごい」
僕が言う。
こんなこと人にできるのだろうか・・・。
これが達人ということなのだ。

「こんなことできる人ほとんどいないですよ！」
大和くんが言う。
彼は研究内容的に、かなりのモーションを見ているのでそのすごさがよくわかるのだろう。
やはり普通の人はまったく同じように動くことはできない。

「さすが空手のチャンピオン」
僕が言う。
日本一の美少女格闘家だとこないだ言っていた。
しかし、みんなの前で言うと怒られることはこないだ学んだので言わなかった。

「体を動かす精度が尋常じゃないんだね。すごいな」
僕が言う。
まったく同じように体を動かすと言うのは、かなり難しいことだ。
自分では同じように動かしているように見えてもまったく違う。

「いやいや！それほどでも！！」
高崎くんは微笑んだ。
てへへ、と笑っていた。
一瞬でいつもの高崎くんに戻っていた。

「あ、わかりました！ここの腕のスナップがわずかに違いますね」
大和くんがその二つの画像を解析して、差異を出していた。
彼のシステムが普通の人では検出できないわずかな差を探し出した。

「あ、わかっちゃうんですね！すごい！」
高崎くんが言う。

「ハイスピードカメラで撮ったらもうちょっとわかるかもしれませんが、このカメラだとここが限界ですね」
大和くんが説明する。
そもそも撮っている機器の精度などでそこから先は変わってくる。
海外の野球の世界だとすべてをハイスピードカメラで録画して解析して回転数まで把握しているらしい。
そこまでやれば彼女の動きも把握できるかもしれない。

「すごいんだよ！」
ヒカルちゃんが驚く。
動画解析は極めて行くとこのレベルのことができるようになっていく。
ヒカルちゃんにとっても興味のある分野だろう。

「この違いを常に注意してほしいです、こっちの動きをしたら負けちゃいます！」
高崎くんは手首をステップさせながらいった。
それができない場合は負けることがあるらしい。
コンマ何秒の世界でたたかっているのだろう。

「とんでもない世界の話してるね」
僕は笑った。