第36話 中学生

文字数 1,328文字

「びっくりしましたね」
高崎くんが帰りの車で運転しながらそう言った。
今起きた出来事、瞳を使ったストーキング、犯人は佐々木の娘。という件についての感想だった。

「ヒカルちゃんがあんなに大きくなってるなんてね」
僕はそう言った。そう、僕が会っていた頃は本当に小さいころだったからだ。

「そこですか?」
高崎くんは笑う。他にも普通だったらきになるところありますよ、と言わんばかりの笑顔だった。

「会ってたのは小学生ぐらいの時だからね。いきなり大きくなってビックリした」
僕は言う。そう、小学生と中学生ってもはや別人だと言える。もちろん面影はあったけど、思考は全く別になるだろう。

「いきなりじゃないですよ。ちゃんと暮らしてきたんです!」
高崎くんがちゃんと、彼女たちの数年間を想像して言った。
そう自分たちが会わない間もその人たちの人生は続いている。

「たしかに、すごく勉強したみたいだね。うちの学生の刺激になるだろうな、ウカウカすると負けてしまう」
僕はいう。僕にとってはこっちの方が面白いことだった。新しい才能を才能があるひとにぶつけたらより良い才能が発現することは当たり前によくある。

「そんなに凄いんですか?先生たちのブログを見たらできるって」
高崎くんは驚く。ヒカルちゃんが簡単そうに言っていた言葉を繰り返した。彼女からすると、実力はわからないのでヒカルちゃんの言葉の真偽を把握するのは難しいだろう。

「いやいや、できないよ。あくまでやり方が書いてあるだけだからね。瞳を拡大して知りたいことを知るというテーマを自分で立てることができるのが凄い。そして実際役に立つものができた。これってなかなか大変だよ。優秀」
彼女がやった事がどれほどの難易度なのかを説明した。ツールのヒントは僕たちのブログから得たとは思うけど、実際にディフープラーニングを活かす方法を考えて、実行するのはかなり難しい。

「そんなに凄いんですね」
高崎くんは驚きながら言った。エンジニアの実力を測ることはまだ彼女には難しいようだった。

「いやー、若さって凄いなって感じだ」
僕は純粋な感想を口にした。そう、そもそもモチベーションが大事だ。彼女は純粋なモチベーションに自分のスキルを当てていたのがなかなか素晴らしかった。

「なに言ってるんですか、先生も若いですよ」
高崎くんが言う。

「いやー、どうかなー」
僕も答える。エンジニアにとって若い思考を保つのは大事なことなので意識はしているけど、純粋な若さはもうない。

「えー」
高崎くんが不満そうに声をあげる。

「まぁ、仕事頑張りますかね」
僕は話を戻す。

「そうしましょう!」
高崎くんもテンションを戻す。

「そういえば高崎くんもすごかったね」
僕は今日の高崎くんの動きに付いて思い出す。

「え?そうですか」
高崎くんは嬉しそうにしている。

「きらりちゃんもヒカルちゃんも傷つけずその場を収めたからね」
僕は彼女の空気を読む能力と体術の素晴らしさを思い出した。

「そう、日本一空手が強く頭のいい美少女なんですよ!」
彼女は冗談っぽく、えっへんと声に出しながら言った。

「そうだったね」
僕は笑った。
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