文字数 658文字

 家に帰ってベッドに横になりながら、ケンジはボーっと天井を眺めていた。心の中は空っぽだった。
「ねえ、今日のデート、どうだった?」
 理沙が部屋に入るなり聞いてきた。
「ん?うん。まあ・・・。」
「あ!やっぱりデートだったんだ!」
「え?・・・、いや、ま、別に・・・。」
「ねえ、誰よ!どんな相手?ねえ、言えよ、コラ!」
 ケンジは面倒くさくなってきた。
「む・・・、村川・・・、友子さんだよ。」
「え?」
 理沙は絶句したまま固まってしまった。
「でも、安心しろ。完全に振られちまったから。もう二度と、友子さんと会うことはないから。」
「振られたって・・・、お兄ちゃん、いきなり告白したの?」
 ケンジは小さく何度かうなずいた。理沙は完全に固まってしまった。息も止まっているようだ。ケンジは上から首を絞められることを覚悟したが、突然、理沙の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「お兄ちゃん、凄い!ホントッ、スゴイよ!ハハ・・・、お兄ちゃん・・・、偉い!ハハ・・・、それ!それよ!それなのよ、お兄ちゃん!」
 笑いながら、理沙はポロポロ涙を流し、ケンジをバンバン叩いた。大袈裟な奴だなと思っていると、突然、理沙の顔がにじんできた。
「あれ?」
 気がつけば、ケンジの目からも涙がこぼれていた。何でだ、おかしい、別にそんな悲しいわけでもないのに・・・。でも涙が溢れて止まらなかった。
「お兄ちゃん、凄い!」
「そうか!ハハハ・・・。」
 ケンジは泣きながら、理沙もこうやって見ると結構かわいいな、なんて思ったりもしていた。
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