プロジェクト

文字数 1,210文字

 翌日の朝、友子が出社すると、加地が来ていた。新任の課長と何やら引継ぎをしているようだった。友子は加地を久しぶりに見て、話を聞いてもらいたくて仕方がなかった。しかし始業のベルが鳴り、課長補佐が加地の出向と新任課長のことを紹介して、それぞれ短い挨拶を終えると、そのまま加地は部屋を出て行ってしまった。
 友子は廊下に出て加地に声を掛けた。
「おー、村川さん。営業に来てくれて嬉しいよ。一緒に仕事がしたかったけど、まあ仕方ない。大変だと思うけどがんばって!」
「私、加地課長に聞いてもらいたいことが一杯あるんです。」
「え・・・。」
 友子は目に涙を浮かべて訴えた。加地はスッと頭を下げた。
「すまない。今の私は、何もしてあげられないんだ。せめて、話を聞いてあげたいけど・・・。くそ、飛行機の時間を遅らせるんだった!必ずメールするよ。社のアドレスは変わってないよね?」
 友子はうなずいた。
「必ずメールする。じゃあね。」
 加地は行きかけたが、振り向いて友子の方を見た。
「そうだ。君、ここで掃除をしていた林田さんって知ってるかな。」
「え・・・、はい。知ってます。」
「彼、クリスチャンなんだけど、彼の教会にこの間行ってきたんだ。凄くいい所だよ。もし良かったら、村川さんも行ってみたらどう?」
「は・・・、はあ・・・。」
「じゃあ、ごめんね。元気でね。」
 加地は早足で階段を下りて行ってしまった。友子は取り残されたような気分だった。
 部屋に戻ると、突然、新しい課長が友子と若手社員二、三人を呼んで、会議室に集めた。「いきなりで申し訳ないが、新しいプロジェクトを立ち上げることになった。」
「プロジェクト?」
「そう。上からの指示で、君達が選ばれた。まあ、光栄に思っていいんじゃないかな。」
「どんなプロジェクトですか?」
「新製品の販売方法を検討するプロジェクトだよ。村川さんは製品企画にいたから、例の新素材、知ってるよね。あの営業方法を検討するよう、指示があったんだ。」
 友子は驚いた。あの新素材は他社製品に比べて致命的な欠陥があり、製品企画部内ではこれ以上やっても無駄ということで、研究を取りやめる方向で進んでいた。それが今、なぜ?
 メンバーの一人が尋ねた。
「課長。あれは商売にならないと聞いたことがありますが、大丈夫ですか?」
「それは本当の話か?」
 友子は大きくうなずいた。
「ふーん。私はその辺の事情は良く分からないが、とにかくそれを売り込む方法を検討しろとの上からのお達しなんだよ。」
 参加者全員の顔が曇った。ただでさえ忙しいのに、そんなやっかいなプロジェクトを担当させられたらたまらない。
「あの・・・、そのプロジェクトのリーダーは誰なんですか。メンバーの互選ですか。」
 一人が尋ねた。
「いや、もう決まっている。上からの指示だ。」
「誰ですか。」
 友子が尋ねた。
「村川さん、君だよ。」
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