友子

文字数 833文字

 同じ頃、友子は、自宅マンションの玄関の前で、鍵を持ったまま立ち尽くしていた。フーっと息を吐いて、玄関を開けた。
 すると思いがけず、電気がついていた。
「あら、お帰り。」
 友子の母親がビールを飲みながらテーブルに座っていた。
「母さん、まだ起きてたの?」
「そう。ずっーっと帰りを待ってたんだよ。なんだ、あんたもお酒飲んでるの?」
「今日、飲み会だったから・・・。」
「そう。」
 キッチンに入ると、朝、友子が出ていく時にキレイに片付けたままになっている。
「母さん、晩ごはん、食べてないの?」
「ああ。だって、帰ってくると思ったから。」
「どこかでお弁当でも買ってくればいいじゃない。」
「いやよ。あんた、母さんにコンビニのお弁当なんか食べさせるつもりかい?」
「・・・。」
「電話一本かけられないのかい?そうすりゃ母さんだって何とかしたわよ。」
「・・・ごめん。」
「どうせ、あなたにとって、私なんてどうでもいい存在なんでしょ。」
「そんなことないわよ。」
 母親は突然すすり泣き始めた。
「ごめんね。私なんて、ただのお荷物よね。あなたの足を引っ張って。私がいるからあなたは自由になれないのよね。分かってるの。母さん、分かってるのよ。私のこと、イヤなんでしょ?そうよね。そうに決まってる。それでいいのよ友子。母さん、十分分かっているから。ああ・・・、お父さんさえ生きていたら・・・、母さんだってこんなじゃなかったのに・・・」
「分かってるわ、母さん。」
「ああ、私がいるからあなたは結婚もできない。ゴメンね、友子。ああ、早くお迎えが来ればいいのに・・・。母さんなんて、早く死ねばいいのよ。そうよね。ごめんね・・・、ごめんね・・・。」
 母親ははらはらと涙をこぼしていた。
「母さん。もう泣かないで。今度からちゃんと電話するから。ちょっと待ってて。今、何か作るから。」
「ごめんね。」
 友子は着替えもしないまま、蛇口のバーを上げて鍋に水を勢いよく流し込んだ。
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