準備

文字数 834文字

 次の日の朝、ケンジはモップをかけながら友子が来たら何を言われるだろう、どんな顔をしたらいいのかとドキドキしていたが、友子はいつもどおり丁寧に挨拶をしただけで、ケンジの前を通り過ぎた。ケンジはホッとした。ただ、今日も加地は来てない。それは気がかりだった。加地の心配をしながらも、友子とのデートにこれまたあれこれ気をもんで、頭がゴチャゴチャになりながら、ケンジは清掃を終え、帰宅した。

 その日の夜、ケンジはタンスの中から自分の服を全部放り出して、ベッドに並べていた。
「今度は何?」
 いきなり理沙が入ってきた。
「お・・・、お前、いきなり入ってくんな!」
「何慌ててんのよ。今度はどこに行くの。また飲み会?」
「いいから、あっち行ってろ!」
「ねえ、昨日から変じゃない?いきなり奇声発したり、またこんな服並べたり・・・。」
「別になんでもねえよ。」
「デートでも行くの?」
「な・・・!そんな訳ねーだろ!」
「そうよね~。でも何か怪しいな~。」
「もう、向こう行けって!」
「ふ~ん。」
 理沙は一旦は部屋を出ようとしたが、また向きなおした。
「ねえ、もし服のコーディネートで困ってるんなら、女の私の意見、参考になるんじゃないかなぁ~。」
「いいから向こう行けって!」
「あ、そう。じゃあ。」
 理沙は部屋から出て自分の部屋に戻った。それから十分程して、ケンジがモソっと現れた。
「お前、ちょっと来い。」
「何よ。」
「いいから!」
 理沙はニチャ~っと笑いながら、ケンジにどの服が似合うかアドバイスした。その間、少なくとも二十回は誰とデートに行くか尋ねたが、ケンジは絶対に言わなかった。言えるはずもなかった。
「でもロクな服ないわね~。買ったら?」
「う~ん。」
「まあ、いい服買っても顔がそれじゃね~。」
「ほっとけ!」
 結局、いつもの服に少しプラスして、若干おめかししたような組み合わせにすることで落ち着いた。
 ケンジはもう疲れ果てて、その夜は爆睡した。
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