ありがとう（２０２４．６．３）

ありがとう
と言ってから
彼は驚いた

いつも
ありがとう
と思っても
決して
ありがとう
とは言えなかったのに

理由を
探すが
見つからない

理由を
探すのは
照れ隠しだ

ほんとうに
自分は
ありがとう
と言ったのか？

だんだんと
自信がなくなる

こちらこそ
と彼女が
軽く笑む

大丈夫
きちんと
言えたようだ

一度言ってしまえば
ありがとうが
次から次へと溢れ出す

ひとり
絶望して
勝手に
彼女を
恨んで
口が裂けても
ありがとう
なんて言うまい
と思っていた

ずっと
暗い目をして

絶望が
希望に
変った
訳ではない

ただ
心が軽くなった

たった
ひと言で

そう
たった
ひと言で

彼は
騙され
全てを失い
傷ついた

また
歩き出さそう
と思えたのは
ありがとう
のおかげだ

どうして
ありがとう
と言えたのだろう？

きっと
ありがとう
がこじ開けてくれたのだ

ありがとう
に
ありがとう