第147話 エピローグ【4】

文字数 656文字

【4】

『カミカゼ特攻機が私の乗った運搬船に突っ込んできた。何もできず、甲板で立ちすくんでいた』

 新聞社のインタビューに対する、キーン氏の沖縄戦での回想を目にしたこともある。
 だから、祖父の話を聴きながら、真っ先に思い浮かんだのがキーン氏の自叙伝に描かれていた従軍の体験だったし、祖父の語る沖縄戦の話を複雑な気持ちで聴いていたのも事実だ。

『人間はマス(集団)の一部になると性格が変わる。戦時下、日本人にもそういうことがあった』

 キーン氏はこう言ったが、それは戦争の中で、あるいは宗教の中で、時代や人種を問わずに出現するものだ。

〈戦争とは、人間の意識の一面が現実化し巨大化したものなんだな……〉

 祖父の話を聴きながら、キーン氏の言葉を思い出し、私はそんなことを考えていた。

『たぶん友情が人間同士の抱く普通の感情で、戦争はただの逸脱にすぎないのだろう』
 これも彼の言葉だ――。

 私たちは、3・11において、我が国の自衛隊と在日米軍の獅子奮迅の救助活動に接して、
「軍隊が軍隊だからこそ、多くの人々の命を救うことができる」
 ということを目の当たりにした。
 人は善にも悪にもなり得る。
 そして、戦争や災害という悲惨で混乱した状況だからこそ人間の神性が発揮され、その小さなひとつひとつが瓦礫の中に埋もれながらも、きらめく星のように輝くこともある。

 戦争というものを無くしていくためには、私たち一人一人の心の中にある「戦争の芽」というような「心もち」を、自分自身で、根気よくひとつひとつ潰していくしか方法はないのだろう――。
  
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