第75話 検索【3】

文字数 816文字

【3】

 私はパソコンの液晶画面を呆然と眺めていた。
そこには私の疑問に対するすべての答えがあった――。

〈残存機で当初の予定通り出撃し、仮に作戦が成功してサイパン島のB-29群に打撃を与えていれば、隣接するテニアン島からの原爆投下計画は延期されていたかもしれないな……〉

 祖父は、「この作戦が決行されていれば、原爆投下は防ぎ得たかもしれない」と考えたのではないのか? 
 しかし、月明だけが頼りの夜間出撃のためには月齢が足りなかった。
 一度目の出撃予定は月明を待っている間に敵空襲によって中断を余儀なくされた。
 そして二度目の出撃のため月明を待つ間に、日本は人類史上初めての原爆投下を二度も受けることになった――。
 天は最後の最後まで日本に味方しなかった。
 私の耳に「ツキ」と聞こえた祖父の言葉は、「月」であり「月明」のことだったのだ。
 
『夜間攻撃というのは月明だけを頼りに行うのですわ。
 天候、月齢、月の出を基礎にして攻撃計画が立てられるのですな。
 ですから、出撃の夜は、雲ひとつない夜空に銀色の満月が冴え冴えと光を湛えて浮かんでいるのが常です――』

 私はテープの中で祖父が語っていた言葉を思い出していた。

〈綿密なシミュレーションを行い、特攻作戦の人材と機材が結集していたのに、広島の原爆投下が分かった時点で直ちにテニアンを叩く方法はなかったのか?〉

 Wikipediaの記事を読みながら、私でさえそんなことを考えていたのだから、当時その場にいた当事者の祖父がそう考えなったはずがない。
 「最後の最後でさえ、私は国難に奉公することができなかった」という祖父の言葉は、敵の喉元に短刀を突きつけるような計画がありながらも実行直前に潰え、我が国、開闢以来の国難となった原爆投下を防ぐ機会を失してしまった、しかも、その原爆投下の拠点となっていたのは、以前自分が配属されていたテニアンであった……、という無念さの表れではなかったのか――。
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