第118話 足跡を辿って【7】
文字数 1,172文字
【7】
【ギルバート、マーシャル諸島は四三年末期になると米軍の重要ターゲットになっていた。
連合軍が太平洋を攻略し、前線を北上させ、最終的に日本の降伏を促すためには、これらの諸島を陥落させることが必要不可欠になっていた。
十一月二十日がタラワ上陸作戦日と決定され、米軍はその前二日間タラワへ集中攻撃を加えた。そして、二十日、海兵隊の上陸が始まった。
キッドは、上陸作戦を空から掩護する空母の護衛、対潜水艦哨戒任務についていた。空母インディペンデンスから敵潜水艦発見の報告を受けたキッドは捜査を行ったが、結局交戦の機会はなかった。
同日、十八時。キッドは、捜査を終え、機動部隊に帰還中であった。機動部隊本隊からは約一○○マイル離れていた。突如、キッドの後方、太陽を背に、一式陸攻(Betty)の編隊が現われた。
「敵機、後方。距離、一二○○○ヤード。高度一○○フィート。コース、一二○度」
艦長がスピーカーに叫んだ。「コース右に変更」
日本機の編隊を右舷真横で捕らえられるようにキッドはコース変更を行った。
そのころ、敵機編隊も、コースを北東に変更し、機動部隊への攻撃態勢に入ろうとしていた。
敵機編隊は、キッドをまったく無視しているようであった。
編隊を崩さず、キッドの三○○○ヤードまでにせまって来た。
「射撃開始」艦長が叫んだ。キッドの五インチ砲が射撃を開始した。
ダッ、ダッ、ダッとキッドの四○ミリ対空砲が右舷をとおり過ぎる敵機に向かって咆えた。
まったく何も起きない。一式陸攻はそのまま空母に向かっていった。
「当たっていないのか?」
一式陸攻は対空砲攻撃の嵐の中、激しく揺れ、時には海面に叩きつけられそうになりながらも、編隊をまったく崩さなかった。
射撃開始三十秒後、一機が胴体から火をだしながら海面に墜落した。
その数秒後、もう一機が左翼を吹き飛ばされ墜落した。
ほぼ同時に、空母を離陸した味方の戦闘機二機が、編隊の一番機に、そして別の二機が後尾の敵機に攻撃を開始した。
上から下へ突き抜けるようにしながら、機銃掃射を与えたが、一式陸攻にはなんらダメージを与えているようには見えなかった。
「頑丈にできているな」とさすがのロービー艦長も一式陸攻の丈夫さに感心せざるをえなかった。】
読み始めてすぐに、その戦闘が祖父の話に出てきたタラワ島の攻防戦であり、文中の一式陸攻の攻撃隊が第七五五航空隊であることが分かった。
それは祖父が参加した作戦の光景ではなかったが、アメリカ軍の視点によるその簡潔な文章の端々に、図らずも一式陸攻の搭乗員の意地と、抜きん出た技量が浮き彫りにされており、祖父も同様の死線を何度も越えてきたのだろうと思うと、たまらなくなった。
〈ジイちゃんの言ってた通りだ。一式陸攻は、けっしてワンショット・ライターじゃなかったんだ……〉
【ギルバート、マーシャル諸島は四三年末期になると米軍の重要ターゲットになっていた。
連合軍が太平洋を攻略し、前線を北上させ、最終的に日本の降伏を促すためには、これらの諸島を陥落させることが必要不可欠になっていた。
十一月二十日がタラワ上陸作戦日と決定され、米軍はその前二日間タラワへ集中攻撃を加えた。そして、二十日、海兵隊の上陸が始まった。
キッドは、上陸作戦を空から掩護する空母の護衛、対潜水艦哨戒任務についていた。空母インディペンデンスから敵潜水艦発見の報告を受けたキッドは捜査を行ったが、結局交戦の機会はなかった。
同日、十八時。キッドは、捜査を終え、機動部隊に帰還中であった。機動部隊本隊からは約一○○マイル離れていた。突如、キッドの後方、太陽を背に、一式陸攻(Betty)の編隊が現われた。
「敵機、後方。距離、一二○○○ヤード。高度一○○フィート。コース、一二○度」
艦長がスピーカーに叫んだ。「コース右に変更」
日本機の編隊を右舷真横で捕らえられるようにキッドはコース変更を行った。
そのころ、敵機編隊も、コースを北東に変更し、機動部隊への攻撃態勢に入ろうとしていた。
敵機編隊は、キッドをまったく無視しているようであった。
編隊を崩さず、キッドの三○○○ヤードまでにせまって来た。
「射撃開始」艦長が叫んだ。キッドの五インチ砲が射撃を開始した。
ダッ、ダッ、ダッとキッドの四○ミリ対空砲が右舷をとおり過ぎる敵機に向かって咆えた。
まったく何も起きない。一式陸攻はそのまま空母に向かっていった。
「当たっていないのか?」
一式陸攻は対空砲攻撃の嵐の中、激しく揺れ、時には海面に叩きつけられそうになりながらも、編隊をまったく崩さなかった。
射撃開始三十秒後、一機が胴体から火をだしながら海面に墜落した。
その数秒後、もう一機が左翼を吹き飛ばされ墜落した。
ほぼ同時に、空母を離陸した味方の戦闘機二機が、編隊の一番機に、そして別の二機が後尾の敵機に攻撃を開始した。
上から下へ突き抜けるようにしながら、機銃掃射を与えたが、一式陸攻にはなんらダメージを与えているようには見えなかった。
「頑丈にできているな」とさすがのロービー艦長も一式陸攻の丈夫さに感心せざるをえなかった。】
読み始めてすぐに、その戦闘が祖父の話に出てきたタラワ島の攻防戦であり、文中の一式陸攻の攻撃隊が第七五五航空隊であることが分かった。
それは祖父が参加した作戦の光景ではなかったが、アメリカ軍の視点によるその簡潔な文章の端々に、図らずも一式陸攻の搭乗員の意地と、抜きん出た技量が浮き彫りにされており、祖父も同様の死線を何度も越えてきたのだろうと思うと、たまらなくなった。
〈ジイちゃんの言ってた通りだ。一式陸攻は、けっしてワンショット・ライターじゃなかったんだ……〉