第54話 カセットテープB面【20】

文字数 759文字

【20】

 アメリカは、フィリピン人に「スペインの植民地統治を終わらせる」と言ってマニラに軍を進出させ、スペインに代わって植民地にしてしまったのですがね、話が違うと蜂起した独立運動をアメリカは軍隊を使って徹底的に殺戮したのですよ。
 昔から木綿産業が盛んだったインドですが、宗主国のイギリスの産業革命によって、イギリス産の木綿を無理やり輸入させられるハメになり、木綿産業に携わる何百万人という人々が職を失い、当時「木綿織布工たちの骨はインドの平原を白くしている」と云われたそうですな。
 では、なぜ、その宗主国が植民地であった国の民衆から恨まれていないのかというと、それは間接統治したからなんですわ。
 マレーシアの逸話なんですがね……、まず、イギリス人が一番偉い人で現地政府の高官や軍人となり、その下で威張っている公務員や警官はインド人、インド人の下で商売をしていたのが中国人、中国人に使われてグダグダ酔っ払って寝ていたのがマレー人。
 そのマレー人を取り締まって嫌われていたのがインド人、マレー人から金を儲けて嫌われていたのが中国人、その上にいて「まあまあ」といい顔をしていたのがイギリス人だったのだそうですな。
 ですから搾取されていた当のマレー人は「イギリス人は親切でいい人」などと思っていたのでしょう。
 実に巧妙ですな。日本人はここまで巧妙で悪辣にはなりきれなかったのです。
 帝国主義や植民地政策が悪いことだと認識されたのは、第二次大戦が終わってからのことです。
 しかし、その後も、イギリスやフランスは自国の植民地をなんとか維持しようと画策していたのですよ』

『はぁ……。
 紳士の国イギリス、人権の国フランス、自由の国アメリカ、牧歌的なオランダ、そんなイメージしかなかったです』

 ――記者は、消え入るような声で返事をした。
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