第17話 カセットテープA面【11】

文字数 930文字

【11】

『はい、分かりました。
 では遠慮なく……。
 ところで、あなた、ABCD包囲網という言葉をご存知ですかな?』

『はい、当時、対日経済封鎖を行った連合国の頭文字ですよね。
 Aはアメリカ、Bはブリテンでイギリス、Cはチャイナ、Dはダッチでオランダですよね。
 これは教科書にも出ていました』

『あなた、学校で習ったことはよく覚えていらっしゃるのですなぁ。
 そうそう、その通り、ご名答です。その経済封鎖で日本が一番困ったのが石油の禁輸でして、それが日本に開戦を決意させる大きな要因となったわけですが、ABCD包囲網の連合国相手に開戦した日本の最大の目的は、実は蘭印(らんいん)の石油資源の獲得だったのですよ。
 あっ、そうそう、あなた、これからの話は、この地図を眺めながら聞いて下さいよ』

『はい、分かりました。先ほどから、ちらちらと拝見しながらお話を伺っております』

 そう言えば、祖父の会長室の大きな応接テーブルには、透明なビニールカバーをかけられた世界地図が貼りつけられていたっけ――。

『蘭印とはオランダ領東インドの略で、現在のインドネシアのことです。
 オランダはインドネシアの諸島を三百年以上も植民地支配しておりましてね、一番大きなジャワ島に総督府や軍事施設を置き、スマトラ島やボルネオ島には大規模な油田を開発しておりました。
 それら大小の油田を合わせると、当時の日本の年間需要量を上回る算出量があると言われておったのです。
 当のオランダはヒットラー率いるドイツに占領され、政府はイギリスに逃げて亡命政府だったのですがね、そんな状態でもオランダは米英に義理立てして日本に宣戦布告しましたので、日本は早速陸海軍を派遣し、たった三ヶ月でオランダ領であったインドネシア諸島を占領してしまったのです。
 もちろん、油田も無傷のまま確保しました。
 その占領で、海軍は東チモール島のクーパンに航空基地を置いて、目と鼻の先にあるオーストラリアからの攻撃に備えたのです。
 そのクーパン基地に進出したのが、我が高雄航空隊です。
 高雄空は、昭和十七年四月にクーパンに全隊進出してから昭和十九年の一月にテニアンに転進するまでに、五十数回にも及ぶオーストラリアのダーウィン基地攻撃の一翼を担ったのです』
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