第148話 エピローグ【5】

文字数 721文字

【5】

 祖父の残してくれたこのテープの内容を伝えるべき人間――、私の血を分けた一人息子は、今は元妻と暮らしている。
 彼女は当時中学生だった息子を連れて家を出て行ったが、息子の姓は変えなかった。
 それは彼女なりに息子の将来を考えてのことだったと思うが、今となってはそのことに心から感謝している。
 しかし、私は祖父のテープを息子に聞かせることができるのだろうか? 正直に言うと自信がない。

 妻は、いつの頃からか新興宗教に入信し、私がようやく異変に気づいたときには、熱烈な信者となっており、私が知っていた彼女ではなくなっていた。
  それが離婚の大きな原因なのだが、妻と一緒に暮らすことになった息子は、妻からの入信勧誘を頑として受け入れず、とうとう妻も諦めたらしい。

 祖父の話を聴いてから、関連すると思われる戦史や軍事関連の資料を片っ端から読み漁っていたとき、ベトナム戦争に投入された”Crusader”という名の戦闘機があることを知った。
 クルセイダーとは、「十字軍」という意味だ。

 考えてみれば、ポルトガルとスペインによる大航海時代以降、欧米列強が支配した植民地は、そのほとんどが彼らにとって異教徒の土地であった。
 世界史を顧みれば、当時、彼らは自身の侵略と略奪行為を「十字軍による教化」とみなして正当化していた感がある。

 事実、列強がターゲットの侵略を開始せんとするとき、その前に必ず宣教師が上陸している。
 宣教師は布教しつつ現地人の協力者を作るかたわら、その国の国情を克明に逐一本国に書き送るのである。
 中世日本でも、織田・豊臣・徳川の三代の政権はその筋書を体験しているが、豊臣と徳川のぬかりなさによって、日本は植民地となることを免れている。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み