第42話 カセットテープB面【8】

文字数 818文字

【8】

『わかりました。では話させてもらいます……。
 夜間攻撃というのは月明だけを頼りに行うのですわ。天候、月齢、月の出を基礎にして攻撃計画が立てられるのですな。
 ですから、出撃の夜は、雲ひとつない夜空に銀色の満月が冴え冴えと光を湛えて浮かんでいるのが常です。
 全面ガラス張りの風防から海面の波頭に揺れる月明かりを眺めていますとね「ほんとにここは戦場なんじゃろか?」と不思議な気持ちになったもんです……。
 夜間攻撃の光景ってのは、たいそう綺麗なんですわ。
 まんまと奇襲に成功して、さあ離脱という段になって、敵基地からシューっと照明弾が上がります。
 アメリカさんの照明弾はそりゃ明るくてね、あたりが真昼のようになります。
 そこに次は、舞台俳優もかくやというように、我々の機は十数個もの探照灯に照らされ、あまりの眩しさに一瞬何も見えなくなります。
 すると、敵の高角砲射撃がはじまり、機首や機体の左右でドッカン・ドッカンと砲弾が炸裂しだすんですな。
 これはまったく、大きな打ち上げ花火そのものでして、砲弾が当たらん限りは、その花火を特等席から眺めているんですから、そりゃもう綺麗なもんです。
 その砲弾をかわしても、お次は、すかさず飛び立った敵戦闘機の機銃攻撃ですわ。
 機銃の曳光弾がシュッシュッ、シュルルルルルと光の尾を引きながら、四方八方から我が機めがけて飛んでくるんですが、この真っ赤な火矢の流れが息を呑むほど美しいのです。
 おかしな話でしょう? 当たれば死ぬことが分かっている敵の攻撃弾を綺麗だなんてねぇ……。
 今どき、こんなことを言ったら不謹慎だとお叱りを受けるかもせれませんな。
 でもね、こりゃ、生き死にの現場に幾度となく身を置いた人間の本音です。
 ペアの奴らも、不思議と同じことをいうんですわ。
 きっと、戦場という苛烈な環境にいるからこそ、もののあわれを敏感に感じて身に沁みるのでしょうなぁ……』

 ――そこで祖父がフウと息を継いだ。
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