第2話 みーちゃんの朝ごはん

文字数 1,871文字

 今日のみーちゃんはいつものように早起きです。

 みーちゃんは朝6時半に起きます。お休みの日だって、寝坊なんかしません。食べることが何より好きだからです。

 顔を冷たい水で洗って、台所に行くと、テーブルの上にお茶碗やおはし、小皿、中皿、大皿が並んでいます。

 「おはよう!」

 そうみーちゃんが言うと、お料理をしているお母さんが振り向きます。

 「ああ、おはよう。もうすぐご飯だから、席についてね」。

 みーちゃんのうちは4世代8人家族です。お父さんとお母さん、お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、ひいおばあちゃん、大学1年生の大兄ちゃんのきーちゃん、高校1年生の小兄ちゃんのなーちゃん、それにみーちゃんです。

 座る席は決まっています。テーブルの南側にお祖母ちゃん、西側にお祖父ちゃんとみーちゃん、東側にお母さんとお父さん、北側になーちゃんです。みーちゃんの席は前にはきーちゃんが座っていましたが、東京の大学に行ったので、今はそうなっています。

 ひいばあちゃんは椅子に座れないので、茶の間のテーブルで座椅子に腰掛けて、食べます。96歳ですから仕方がありません。朝食は、おかゆに、神棚に上げたお膳です。

 前に、みーちゃんがお父さんに、「どうして神さまのをひいばあちゃんに出すの?」と聞いたら、こう教えてくれます。

 「いつお迎えが来てもいいようにな、今のうちから食べる練習だ」。

 8人家族は食事が大変です。みんなに卵を出すと、パックの中には2個しか残りません。今は7人ですが、それでも残っているのは3個です。次の日にも卵を食べようと思ったら、また買ってこなければならないのです。

 黄身がうっすらと桃色になった目玉焼きがのった中くらいの白い丸皿がそれぞれの席の前に置いてあります。

 テーブルの真ん中には、ちょっと大きめの深皿があります。おしょうゆのかかった削り節がのったうす切りのたまねぎ、玉菜とわかめのおひたし、さといもの煮っころがし、きゅうりとなすのおつけ物、キューピー・マヨネーズで渦巻きが描かれた八つ切りのトマト、それに夕べの残り物の白菜とベーコンの煮物です。

 テレビはNHKのニュースを映しています。

 お父さんがおみそ汁をよそいます。今日の具は大根とニンジン、薄揚げ、長ねぎです。お母さんは、その間に、ひいばあちゃんの席の用意をして、呼びに行きます。

 「おーい、ご飯だぞー!」

 お父さんがこう大声を上げると、みんなテーブルに集まってきます。そろったところで、「いただきます」ですが、いつも声はそろわず、バラバラです。

 太子の納豆をお父さんがかきまぜ、みーちゃんとなーちゃんはそれを分けてもらいます。お母さんは納豆が好きではないので、食べません。お祖父ちゃんはビン詰めのなめたけをご飯の上にのせます。

 お父さんはいつもご飯とおみそ汁を2杯ずつ食べます。そのおかわりのときに、必ず、お祖母ちゃんを食べ方のことで叱ります。

 「まだトマトの皮残してんのか!だから、便秘すんだ!ちゃんと繊維も食べなきゃだめなんだ!おめえの後にトイレに入ると、くさくて鼻がひん曲がる!ゆっくり新聞も読めん!ネズミみてえに、前歯だけでカツカツしねえで、奥歯も使ってしっかりかめ!」

 でも、お祖母ちゃんは「はい」なんて絶対に言いません。チロッと上目づかいに見てふてくされた態度をとるだけです。何しろ、おばあちゃんは近所で「あの人は心がないねえ」と陰口をたたかれる鼻つまみ者なのです。

 そんなお祖母ちゃんをお祖父ちゃんが注意しないのは、きっと婿養子だからだとみーちゃんは思っています。

 ひいばあちゃんは、お祖母ちゃんのことを言われると、「もさげねなあ、おれの育で方がわるくて」と哀しそうにうなだれるのです。そんな姿を見ても、お祖母ちゃんは改心なんかしません。底意地の悪さは筋金入りなのです。

 食べ終わると、お父さんが魔法びんからきゅうすにお湯を入れ、なーちゃん以外のご飯茶碗にお茶をつぎます。こうすると米粒や納豆のねばねばがとれやすくなって、洗うとき便利なのです。

 なーちゃんだけはコーヒーを飲みます。ケトルでお湯を沸かし、ペーパー・フィルターを用意して自分で入れます。なーちゃんは器用で、丁寧ですから、とても上手です。みーちゃんは夜眠れなくなるから飲みませんが、コーヒーの香りが大好きです。

 「ごちそうさま!」

 今日の朝ごはんもお腹いっぱいです。

 ──ああ、おいしかった!うん。あれ、でも、今日のお昼ご飯は何かなあ?

 食べ終わると、もう次のご飯のことで頭がいっぱいになるみーちゃんなのです。
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