第23話 〈バーン・オブ・ハイランダー〉その④

文字数 3,671文字

「ドローフェイズ」
 夕凪が引くカードは、

(ばく)』:相手が使用した防御系カード(盾、囮、蓋、鏡)の効果のいずれか一つを無効にする。

 手札に加え、何もせず古賀にターンを渡した。
「ドローフェイズ。ドローします」
 古賀は、

(おとり)』:ライフを増やすカードの効果を一つだけ無効にし、相手のライフを3点



 ライフを

ことができる、『爆』と『魔』と『罠』でしか効果を無効化できないカードを引いた。
「メインフェイズ。ターンエンドです」
「ドロー」
 夕凪は『肉』を引き、ターンエンド。
 次の古賀のターン。攻撃系カードの『弓』が手札に加わる。夕凪の手札には防御系カードが三枚も(『盾』、『蓋』、『爆』)あるので、このターンでライフを削り切ることはできない。
 古賀がターンエンドを宣言しかけた、そのとき、夕凪がカードを一枚場に出した。
「『宝』を使う」

(たから)』:自分はデッキの上からカードを二枚引く。

 どうしてこのタイミングで夕凪はカードを引くのか。理由は一つだ。古賀が気づいた負け筋の一つ。それを目指して、夕凪は進んでいるのだ。
「二枚引く」
 夕凪の手に、

(くすり)』:自分のライフを3点増やす。
(のろい)』:自分と相手は手札をすべてゲームから取り除く。その後、呪の効果でゲームから取り除いたカードの枚数分だけ、相手のライフを



 案の定、『呪』が加わった。これで確定である。夕凪はもう一度、『呪』によるワンキルを狙っているのだ。
 このゲームで『呪』を無効化できるカードは、『魔』と『罠』の二枚しかない。だが、その二枚は、今はデッキの下のほうに眠っている。
 ……なるほど。だから、あのとき……。
 カードのループ(一ターン目で使ったカードがデッキの一番上に戻ってきた)が始まってすぐ、夕凪は長考した。
 恐らく、そのときに気づいたのだろう。『呪』を使って、もう一度ワンキルを狙えるのではないか、と。
 だが、実行するためには、古賀の手札にある『魔』を消費させ、デッキの下のほうへ送る必要があった。
 だから夕凪は、古賀に『魔』を使わせるために『蘇』のカードを囮に使った。ハンデスカードの『封』を取り戻すと思わせ、古賀を罠にはめたのだ。
 その時点で古賀は、夕凪の

に気づくことができなかった。『単純な戦略』だと笑った。夕凪が『罠』を使ったことで、狙いが本当に、『蘇』を使って『封』を取り戻すことだと

のだ。
 けれど、夕凪は『封』ではなく、ザコ攻撃系カードの『剣』を取り戻した。理由は、ハンデスカードの『封』を古賀に使われるリスクを消すためだ。夕凪はあえて、『封』を除外されたままにしたのだ。
 ……あなた、なかなかやりますよ。夕凪さん……。
 ゲーム序盤の夕凪は確かに素人だった。けれど、ループが始まってから、別人のようにプレイレベルが上がった。
 どのカードが、どのタイミングで手札に入るのかわからない運任せの戦いが終わり、ゲームの中に『すべてのカードの場所と、引くタイミングがわかる』という理が生まれたことで、本来の実力を発揮できるようになったのだろう。
「……ターンエンドです」
「わたしのターン。ドローフェイズ」
 夕凪はカードを引く。

(はな)』:自分はデッキの上からカードを一枚引く。その後、相手はデッキの上からカードを一枚引く。

 ドロー補助系カードを手札に加え、流れるようにエンドフェイズへ移行する。
「ドローフェイズ。引きます」
 古賀は、

(ぬすみ)』:自分のライフを1点

。その後、自分はデッキの上からカードを一枚引く。

 ドロー補助系カードを手に入れた。
 古賀が欲しいのは、次だった。
「メインフェイズに入ります」
「『花』を使う」
 夕凪も、古賀の狙いがわかっていた。
 だから、誰よりも先にデッキトップのカードを狙った。
「夕凪さん。そうはいきませんよ」
 古賀は『盗』を切った。
 夕凪には、『花』以外のドロー補助系カードがない。よって、古賀が先に『盗』の効果でドローする。
 だが、その前に古賀のライフが『盗』のコストで1点減った。残りライフは14点。
「ドロー」

(じゅう)』:相手のライフに5点のダメージを与える。

 単発で最強火力の『銃』。古賀はこれが欲しかった。
「記憶力はいいみたいだな」
 夕凪が、初めて古賀に笑みを見せた。
「あなたもね」
 古賀も笑みで応え、「『花』の効果で引かないのですか? デッキトップの『店』を」と煽った。
「ドロー」
 夕凪が先に、

(みせ)』:自分はデッキの上からカードを一枚引く。その後、自分は手札のカードを一枚ゲームから取り除く。

 ドロー補助系カードを引き、その後で古賀も引く。

()』:自分のライフを1点増やす。

 ショボい回復系カードだが、どのタイミングでも即場に出せるので、使い勝手はいい。
 使用済みの『花』がデッキ下へ送られる。
「ターンエンドです」
 夕凪のターン。ドローフェイズで引いたのは、

(かばん)』:自分はデッキの上からカードを一枚引く。その後、自分は手札のカードを一枚デッキの一番下に送る。

 今使えば、回復カードの『幸』が手に入るのに、夕凪は使わなかった。
「メインフェイズ」
 夕凪が『鞄』を使うのは、『魔』と『罠』がデッキ上部に戻ってきたときだと思われる。
「ターンエンド」
「わたしのターンですね」
 ドローフェイズで古賀は『幸』を引いた。古賀もカードを使用せず、メインフェイズからエンドフェイズへと流す。
 次のターン。夕凪は『糞』を引く。
 そして、メインフェイズで『鞄』と『店』を使った。
 先に発動した『鞄』の効果で『罠』を手にし、『爆』をデッキ下へ送る。『鞄』もその下へ送られる。
 次に、『店』の効果で『魔』を引く。コストで『肉』を除外し、店はデッキ下へ。
「ターンエンド」
 古賀のターン。引くカードは、

()』:ゲームから取り除かれているカードを一枚選んで、自分の手札に加える。

 除外されたカードを取り戻せる効果のカード。
 夕凪の手札には『魔』と『罠』がある。単発使用では、あっさり止められて終わりである。 
「メインフェイズに入ります」
 現在の夕凪の手札は、

(けん)』:相手のライフに1点のダメージを与える。
(やり)』:相手のライフに2点のダメージを与える。
(おの)』:相手のライフに4点のダメージを与える。
(たて)』:ライフにダメージを与えるカードの効果を一つだけ無効にする。
(ふた)』:ライフを増やすカードの効果を一つだけ無効にする。
(くすり)』:自分のライフを3点増やす。
(くそ)』:自分のライフを2点増やし、相手のライフを2点


()』:カードの効果を一つだけ無効にする。ただし、『魔』の後に使われたカードの効果は無効にできない。
(わな)』:相手が使用したカードの効果を一つだけ選び、その効果を『自分のライフを3点

』に変更する。
(のろい)』:自分と相手は手札をすべてゲームから取り除く。その後、呪の効果でゲームから取り除いたカードの枚数分だけ、相手のライフを



 この十枚だ。夕凪の狙いは『呪』によるワンキル一択なので、使うとしても小出しになるはず。一ターン目のように、手札を使い切る激しいカードの応酬は起こらないはずだ。
 そして、現在の古賀の手札は、

(ゆみ)』:相手のライフに3点のダメージを与える。
(じゅう)』:相手のライフに5点のダメージを与える。
(おとり)』:ライフを増やすカードの効果を一つだけ無効にし、相手のライフを3点


()』:自分のライフを1点増やす。
(さち)』:自分のライフを4点増やす。
()』:ゲームから取り除かれているカードを一枚選んで、自分の手札に加える。

 この六枚。
 次のターンから、

一枚目、『宝』(夕凪のドローカード)。
二枚目、『盗』(古賀のドローカード)。
三枚目、『花』(夕凪のドローカード)。
四枚目、『爆』(古賀のドローカード)。
五枚目、『鞄』(夕凪のドローカード)。
六枚目、『店』(古賀のドローカード)。

 互いに出し合ったドロー補助系カードが続く。
 夕凪の残りライフは6点。古賀は14点。
 ここからの展開を古賀は予想する。
 夕凪は『呪』の火力を高めるために、限界までドローする気だ。
 まず、ドローフェイズで『宝』をドローし、手札を増やすために即使用して二枚引く。使用後、『宝』はデッキ下へ。
 ドローカードが二ターン分飛んで、古賀は『爆』を引く。
 夕凪は『鞄』を引く。
 古賀は『店』を引く。
 夕凪は『宝』を引く。ここで、デッキが(ゼロ)になる。
 次のドローフェイズで、古賀はカードを引くことができない。
「神宮寺さん。ちょっとよろしいですか?」
「なんだ?」
「ドローフェイズで、デッキからドローできなかったらどうすればよいのですか?」
「ドローフェイズで、プレイヤーはデッキからカードを

一枚引く。ゲームのルールを無視した奴は敗者だ」
「…………」
 なるほど。

を掘っていたのですか。
 やりますね。夕凪さん……。
 ドローフェイズで、デッキからカードを引けなければ負け。その前に、古賀は手札からカードを使用してデッキを増やすか、決着をつけなければならない。
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