第7話 Pとカード
文字数 1,510文字
「そろそろゲームの説明に移らせてもらいますね」
喋り出した神木のほうに、私と蛇沼は同時に顔を向けた。
「これから行う〈ミート・マーケット〉は、プレイヤーが一対一で持ち点を削り合うカードゲームです」
神木はゲーム場の中央に設置されている箱を指差した。
「あのボックスの中で対戦してもらいます。どうぞ、中に入って、相手と向き合うように席にお座りください」
それは、私が、蛇沼と言葉を交わす前に見ていた六畳ほどの広さの箱だった。推察通り、ゲームはその箱の中で行うようだ。
私と蛇沼は、それぞれ別々のほうから箱の中に入り、設置されている黒塗りのテーブルを挟んで、向かい合って椅子に座った。
箱の中に入って初めて知ったが、テーブルの上に、長さ十五センチ、横幅五ミリほどの、長方形の穴があった。数は二つで、それぞれ、私と蛇沼側のテーブル端に開いている。天井に光る電球が取り付けてあるが、穴の中まで光がとどいておらず、覗き込んでも内部がどうなっているのかよくわからなかった。
他にも気になるものがある。テーブル端の長方形の穴の傍に、縦十五センチ、横五センチ、厚さ六ミリほどの液晶パネルが張り付けてあるのだ。これは、文字や図形、数字などを映すための物だろう。まだ電源が入っていないので、画面は真っ暗だった。
「あーあー。きこえますか?」
私と蛇沼は透明な壁越しに神木を見て、頷いた。神木は箱の中に入らず、箱の外でルール説明と、ゲームの審判 を行うみたいだ。
「お二人の目の前にあるテーブルの上に穴がありますが……」
喋りながら、神木は足元の土から何かを掘り出した。畑から引っこ抜いたサツマイモみたいに土まみれのそれは、数個のボタンが取り付けられた黒い物体だった。物体の先に付いたケーブルが、私と蛇沼がいる箱の下部へ伸びている。
「とある事情により機械の無線操作ができないので、こちらのリモコンを用いて有線操作でカードや点数のやりくりをいたします」
機械の遠隔操作ができないのは、プレイヤーが外部と連絡を取り合えないように、電波妨害装置を建物の外に設置し、作動しているからだろう。私も組員だったとき、プレイヤーの通信機器を用いたイカサマ封じのために、似たような機械を組員の間で貸し借りしていた。
「えーっと、これでボタンを押すと……」
神木がリモコンをいじくっていると、いきなり、テーブル上にある例の穴からトランプカードに似た紙の束が出た。同時に液晶パネルが光り、『1000P』と、数字とアルファベット一文字が映った。
「今、パネルに『1000P』と表示されていますね。プレイヤーから見て右の、テーブルの上に取り付けられたパネルです」
神木がゲームの説明を再開する。
「『P』とはポイントの略で、つまり今、お二人は互いに『1000P 』を所持していることになるわけです」
蛇沼のPが表示された液晶パネルは、私から見てテーブルの左端についている。表示されている数字と文字は同じだ。ゲームは互いに『1000P』を所持した状態から始まるらしい。
「手元に配られたカードをお取りください」
私はトランプカードに似た紙の束を取った。材質は紙。プラスチックではないので、容易に引き裂けそうだ。
バラすと六枚のカードになった。それぞれ絵柄が違う。
一枚は『焼き鳥』。
一枚は『角煮』。
一枚は『すき焼き』。
一枚は『鶏肉』。
一枚は『豚肉』。
一枚は『牛肉』。
肉と料理の絵と、その絵の名前が書かれたカードである。
「ゲームの内容は、デモプレイを行ったほうがわかりやすいはずです。実際にカードを出し合って、試しにプレイしてみましょう。ついでに、ゲームの禁止事項なども話します」
喋り出した神木のほうに、私と蛇沼は同時に顔を向けた。
「これから行う〈ミート・マーケット〉は、プレイヤーが一対一で持ち点を削り合うカードゲームです」
神木はゲーム場の中央に設置されている箱を指差した。
「あのボックスの中で対戦してもらいます。どうぞ、中に入って、相手と向き合うように席にお座りください」
それは、私が、蛇沼と言葉を交わす前に見ていた六畳ほどの広さの箱だった。推察通り、ゲームはその箱の中で行うようだ。
私と蛇沼は、それぞれ別々のほうから箱の中に入り、設置されている黒塗りのテーブルを挟んで、向かい合って椅子に座った。
箱の中に入って初めて知ったが、テーブルの上に、長さ十五センチ、横幅五ミリほどの、長方形の穴があった。数は二つで、それぞれ、私と蛇沼側のテーブル端に開いている。天井に光る電球が取り付けてあるが、穴の中まで光がとどいておらず、覗き込んでも内部がどうなっているのかよくわからなかった。
他にも気になるものがある。テーブル端の長方形の穴の傍に、縦十五センチ、横五センチ、厚さ六ミリほどの液晶パネルが張り付けてあるのだ。これは、文字や図形、数字などを映すための物だろう。まだ電源が入っていないので、画面は真っ暗だった。
「あーあー。きこえますか?」
私と蛇沼は透明な壁越しに神木を見て、頷いた。神木は箱の中に入らず、箱の外でルール説明と、ゲームの
「お二人の目の前にあるテーブルの上に穴がありますが……」
喋りながら、神木は足元の土から何かを掘り出した。畑から引っこ抜いたサツマイモみたいに土まみれのそれは、数個のボタンが取り付けられた黒い物体だった。物体の先に付いたケーブルが、私と蛇沼がいる箱の下部へ伸びている。
「とある事情により機械の無線操作ができないので、こちらのリモコンを用いて有線操作でカードや点数のやりくりをいたします」
機械の遠隔操作ができないのは、プレイヤーが外部と連絡を取り合えないように、電波妨害装置を建物の外に設置し、作動しているからだろう。私も組員だったとき、プレイヤーの通信機器を用いたイカサマ封じのために、似たような機械を組員の間で貸し借りしていた。
「えーっと、これでボタンを押すと……」
神木がリモコンをいじくっていると、いきなり、テーブル上にある例の穴からトランプカードに似た紙の束が出た。同時に液晶パネルが光り、『1000P』と、数字とアルファベット一文字が映った。
「今、パネルに『1000P』と表示されていますね。プレイヤーから見て右の、テーブルの上に取り付けられたパネルです」
神木がゲームの説明を再開する。
「『P』とはポイントの略で、つまり今、お二人は互いに『1000
蛇沼のPが表示された液晶パネルは、私から見てテーブルの左端についている。表示されている数字と文字は同じだ。ゲームは互いに『1000P』を所持した状態から始まるらしい。
「手元に配られたカードをお取りください」
私はトランプカードに似た紙の束を取った。材質は紙。プラスチックではないので、容易に引き裂けそうだ。
バラすと六枚のカードになった。それぞれ絵柄が違う。
一枚は『焼き鳥』。
一枚は『角煮』。
一枚は『すき焼き』。
一枚は『鶏肉』。
一枚は『豚肉』。
一枚は『牛肉』。
肉と料理の絵と、その絵の名前が書かれたカードである。
「ゲームの内容は、デモプレイを行ったほうがわかりやすいはずです。実際にカードを出し合って、試しにプレイしてみましょう。ついでに、ゲームの禁止事項なども話します」