第5話 目覚め

文字数 1,087文字

 私は、目を開けるとすぐ上体を起こした。
 周囲を見渡す。出入口は一つ。窓はない。地面から天井まで、二メートルくらいか。
 ここは木の板に囲まれた農具置き場だ。それっぽい物は置かれていないが、

で直感した。
 傍にある木製の箱の上に、服と下着と靴、爪切りとハサミ、それから鏡が雑に置かれている。たぶん、神木が用意した物だろう。ゲームが始まる前に、身だしなみを整えろ、ということらしい。
 薄汚れた服と下着を全部脱ぎ捨て、素っ裸になった瞬間、出入口のドアが開いた。
「着替え中だぞ、馬鹿野郎ッ!」
「おっと失礼」
 中に入ってドアを閉め、神木は私の裸体をジロジロと眺めた。
「見るな変態ッ!」
「汚れているから、拭いてあげようと思ったのですが……」
 神木の手にはウェットティッシュの丸い入れ物が握られていた。
「いい! 自分でやる!」
 私は神木から入れ物を奪い取り、ウェットティッシュを五枚引っ張り出し、垢まみれの身体を強く拭いた。
「……で、今回使われるゲームは何?」
「申し訳ありませんが、ゲームに関することは何も話せません」
「あっそ」
 ちょっぴりネタバレを期待したが、さすがにそこは徹底している。
 ゲームマスターは、プレイヤーが誰であろうとも、手助けすることは許されない。手助けが発覚すれば、三年前の私のように、すべてを奪われて追放処分を受ける。
「でもまさか、こんなに早くゲームが始まるとは思わなかった」
「そういうこともありますよ」
 神木は肩をすくめた。
 昨日言われて、次の日にゲーム。さすがに早すぎる。まるで、こうなる展開が初めからわかっていたかのような準備のよさだ。
「そんなことよりも神居さん。後三分以内に終わらせてくださいね。対戦相手がお待ちですから」
「ええ……」
 色々と気になるところはあるが、まずはゲームだ。ゲームで勝ち、救済組織の組員に戻してもらう。それが私の、最初の目標だ。
 使ったウェットティッシュを床に投げ捨てる。鏡を見ながら伸び放題の髪の毛をハサミで切り落とし、ブラをつけてパンツを穿く。服は同じロゴの上下セットのジャージだった。色は上下とも黒。靴下は白。靴は黒いラインの入った白いシューズ。セットで買うと安くなる物を揃えたのだと思う。
「あんたこれ、ユニ〇ロで買ったやつ?」
「ダメですか?」
「いや。ダメじゃない」
 下着も服も着心地がよくて動きやすい。それに、何よりも、新品なのが素晴らしい。
「準備できた」
「爪は切らないのですか?」
 うるさいな、と文句を言いながら爪を切る。
「終わった。早くして」
「はい」
 神木がドアを開く。この部屋を出たら、そこはもうゲーム場なのだろう。
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