第18話 ルール説明

文字数 2,958文字

「まず、手前らにはこれを装着してもらう」
 神宮寺は肩に提げていたバッグを下ろし、中からヘッドバンドのような物体を二つ取り出した。
「それはなんですか?」
 古賀の声に、神宮寺は「爆弾だ」とにべもなく答える。
「手前らは何度もやっているからわかるだろう。一対一で行う救済ゲームでは必ず死者が出る」
 プレイヤーのどちらかが死ぬまで行う残酷なゲーム。そうとわかっていても、古賀と夕凪の表情に不安や恐怖の色は浮かばない。
「取り付けやすいように姿勢を正せ」
 喋りながら、神宮寺は古賀の背後に回り、爆弾付きのヘッドバンドを頭部に装着した。
「……きついです。もう少し緩めてください」
「ダメだ。……それと、言い忘れたが、無理に外そうとすると爆弾が爆発するぞ」
 古賀に忠告し、神宮寺は夕凪の頭部にもヘッドバンドを付ける。夕凪は何も言わない。
 神宮寺はバッグの傍に戻り、中からトランプの束のような物を取り出し、古賀と夕凪が対面するテーブルの上に置いた。
「ここに二十五枚のデッキ(カードの束)がある。〈バーン・オブ・ハイランダー〉は、このデッキを使って対戦する、戦略型(トレーディング)カードゲームだ」
 カードを一枚一枚、絵柄を表にして、神宮寺はテーブルに並べていく。
「時間は『無制限』で、勝利条件は『対戦相手の死亡』のみ。反則行為は『暴行』、『ゲームマスターの指示を無視する』、『ゲームのルールを無視した行動をとる』、『イカサマ』だ。ただし、発覚していないイカサマは、ゲームマスターは関知しない。ゲーム中のあらゆる行動は一分以内に行い、『一分を超える遅延行為』はイカサマと判断し、ゲームマスターが勝者を決め、敗者を抹殺する」
「いつも通りですね」
 古賀が相槌を打つ。
「反則行為がなければ、ゲーム中に死者が出ることはない。正しくゲームをプレイしていれば、手前らのどちらかが死ぬのは、決着のときだけだろう」
「勝敗が決したと同時に、この爆弾が爆発するのか」
 夕凪が自分の頭部を指差して言う。
「そうだ。腐って発生したガスで爆発するスイカみたいに頭部が粉々になる。苦しまなくて済む、良心的な罰ゲームだ」
 神宮寺はすべてのカードを並び終え、確認作業を始めた。新品とはいえ、低確率で不良品が混じっていることがあるのだ。
 傷や、絵とテキストの印刷ミスはない。これなら、問題なくゲームを行える。
「……あら? 同名のカードが一枚もないけれど?」
 古賀が気づいたことを口にする。
「〈バーン・オブ・ハイランダー〉で使用するカードに同名のカードはない。絵柄とテキストが違う、二十五枚のカードで組んだデッキを使う」
「相手の頭を吹っ飛ばすためには、どうすればいい?」
 夕凪が質問する。
 神宮寺は着ているスーツのポケットから、こぶし大の大きさの電子機器を二つ取り出し、テーブルに置いた。
「これはライフカウンター(数字を映す機械)だ。ゲームは互いに10点のライフ(持ち点)を持った状態から始まる。そして、先にライフが(ゼロ)になった奴の頭が吹っ飛ぶ」
「ふむふむ……。互いのライフを削り合う戦い、ということですね」
「そうだ」
〈バーン・オブ・ハイランダー〉は、ルール自体はそこまで難しくはない。単純に、自分より先に相手のライフを削り切ってしまえばいい。やることは、はっきりしている。
 ただ、ライフを削るための手順などの細かな部分が複雑だった。要点をしっかり覚えてもらうために、神宮寺は丁寧に説明を続けた。
「このゲームで相手のライフを削る手段は一つしかない」
 神宮寺は一枚のカードを、両プレイヤーの見えやすい位置に持っていった。
「これは『剣』という名前のカードだ。テキストにはこう書かれている。『相手のライフに1点のダメージを与える』。このカードを使うと、相手のライフが1点だけ減る。そういう効果のカードだ」
 こんな風にな、と神宮寺はライフカウンターを操作し、表示されている『10』という数字を1だけ減らして『9』に変えた。
「ライフの状況を知りたいときは、このライフカウンターを見るといい。ただし、ライフの増減は俺がやるから、手前らはこれに触るな」
 プレイヤーにライフの計算を任せないのは、意図的な増減(つまらないイカサマ)を防止するためである。
「次は、ゲームの進行について説明する。まず、先攻後攻を決める。方法はジャンケンでもなんでもいい。ただし、決めるのがあまりにも遅いときは強制ジャンケンだ。勝ったほうを先攻にする」
 異論なし。古賀と夕凪は大人しくきいている。
「次は、互いにデッキの上からカードを五枚引く。引く順番は先攻が先だ。互いに手札が五枚揃ったら、ゲーム開始。ゲームは自分のターンと相手のターンを交互に繰り返し行われる。各ターンは三つのフェイズに分かれており、それらを段階ごとに順よく進める」
 神宮寺は人差し指を立てた。
「フェイズその①、ドローフェイズ。このフェイズで、プレイヤーはデッキからカードを一枚、必ず引く。それ以外に何もできない」
 中指を立てる。
「その②、メインフェイズ。プレイヤーは手札からカードを選んで公開することができる。公開されたカードの効果は必ず発動するから、出すタイミングに気をつけろ。それから、一部のカードは使うタイミングが決められているから、テキストもしっかり読んでおけ。カードを出すタイミングが間違っていても反則負けにはならず、効果が発動せず手札に戻るだけで済むが、あまりにも

はイカサマとして扱う」
 親指を立てる。
「その③、エンドフェイズ。他に何もやることがない、と対戦相手に伝え、ターンを渡すフェイズだ」
 神宮寺は立てた指をすべて曲げ、二人に見えるよう上げていた腕を下ろした。
「各フェイズに移行する際、プレイヤーは必ず、今がどのフェイズで何をしているのか、声に出して対戦相手に明確に伝えろ。無言でプレイし始めた奴はイカサマ扱い、即失格にするぞ」
 失格(イコール)死。このゲームのペナルティはシンプルで、とても重い。
「次は、カードについて説明する。すべてのカードは

使

でき、それ以外のフェイズでは使用不可だ。そして……」
 神宮寺は口調を強めた。次が、このゲームのもっとも難しい部分なのだ。
「一枚のカードの効果発動に対して別のカードを公開し、効果を発動させた場合、先に公開したカードではなく、


「どういうことだ?」
 説明を遮ったのは、夕凪だった。
「先に使ったカードではなく、後に使われたカードの効果が優先させるのは何故だ?」
「ルールだから、としか答えようがない」
 あるカードゲームでは、チェーンと呼ばれる行為である。ゲームのルールを複雑にする要因の一つだ。チェーンが連続すると、素人でなくとも、わけがわからなくなるときがある。
「最後に、このゲームでは、効果が発動したカードは

に必ずデッキの一番下に戻る。説明は以上だ。ゲームを始めるぞ」
「おい待て。各種カードの確認はさせてもらえないのか?」
「テキストを記憶する時間をくださいな」
 甘ったれたことをぬかすプレイヤー二人を、神宮寺は鼻で笑った。
「何を言っている。

だろう」
 神宮寺は

に並べてあるカードを集め、両手で念入りにシャッフルした。
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