第24話 〈バーン・オブ・ハイランダー〉その⑤

文字数 3,713文字

 夕凪は次の自分のターンで、ドローした『宝』で手札を増やし、『呪』で古賀のライフを一気に削りにくる。ワンキルが失敗しても、大ダメージは避けられない。
 だから古賀は決断した。ここで一気に攻め、このターンで夕凪の手札を消費させなければならない、と。
「わたしは、手札から『蘇』を場に出します」
 狙うのは、ゲームから除外されている『封』だ。
「『罠』を使う」
 当然、夕凪はそれを止める。
「『銃』を使います」
「『魔』で防ぐ」
 ライフを守りたい夕凪は、さらに手札を減らす。
「『弓』を使います」
「『盾』で防ぐ」
「『幸』で回復します」
 一呼吸おいて、
「さらに、『実』を使います」
「『呪』を使う」
「……え?」
 古賀は困惑した。
 ……このタイミングで、『呪』を使う? どうして?
 わけがわからないまま、
「効果処理を始める」

①呪(夕凪)
②実(古賀)
③幸(古賀)
④盾(夕凪)
⑤弓(古賀)
⑥魔(夕凪)
⑦銃(古賀)
⑧罠(夕凪)
⑨蘇(古賀)

 ①~⑨へ、順番に効果処理されていく。
「『呪』のコストで、互いの手札をすべて除外する」
 夕凪の持つ六枚、

(けん)』:相手のライフに1点のダメージを与える。
(やり)』:相手のライフに2点のダメージを与える。
(おの)』:相手のライフに4点のダメージを与える。
(ふた)』:ライフを増やすカードの効果を一つだけ無効にする。
(くすり)』:自分のライフを3点増やす。
(くそ)』:自分のライフを2点増やし、相手のライフを2点



 それから、古賀の持つ一枚、

(おとり)』:ライフを増やすカードの効果を一つだけ無効にし、相手のライフを3点



 これら合計七枚がゲームから取り除かれた。枚数分の7点が古賀のライフから減り、残りライフ7点。
 ごっそりライフを持っていかれたが、連続で切った『実』、『幸』の効果で合計5点回復。
残りライフが12点になる。
 次に夕凪の『盾』が古賀の『弓』を防ぐ。『盾』、『弓』の順番でデッキ下へ。
 夕凪の『魔』が古賀の『銃』を打ち消し……。『罠』が『蘇』の効果を変化させ、古賀は3点ダメージ。
 夕凪、残りライフ6点。
 古賀、残りライフ9点。
 互いに手札(ゼロ)
「……ターンエンド」
 モヤモヤした気持ちのまま、古賀は夕凪にターンを渡した。
「ドローフェイズ」
 夕凪が引くのは『宝』。使わず、ターンエンドを宣言した。
「ドローフェイズ」
 古賀は『盗』を引く。使わず、ターンエンド。
「わたしのターン。ドロー」
 夕凪は『花』を手にして、エンド宣言。
 次のドローで、古賀は『爆』を引いた。
 ターンが夕凪へ。『鞄』を引く。エンド。
 古賀のターン。『店』を引く。
 夕凪のターンで、再び『呪』が手札に舞い戻った。
「メインフェイズ。『宝』を使う」
「え……?」
 夕凪が使うカードのタイミングが滅茶苦茶で、思考が追いつかない。
「二枚ドロー」
 回復系カードの『実』と『幸』を手に入れた。
「ターンエンド」
「……わたしのターン」
 引いたカードは『盾』。
「メインフェイズ」
 古賀はいったん、立ち止まった。
 ……落ち着くのです。夕凪さんの行動は一見、滅茶苦茶に思えるかもしれませんが、そこには必ず理があるはずです。
 現在の古賀の手札は、

(たて)』:ライフにダメージを与えるカードの効果を一つだけ無効にする。
(ばく)』:相手が使用した防御系カード(盾、囮、蓋、鏡)の効果のいずれか一つを無効にする。
(みせ)』:自分はデッキの上からカードを一枚引く。その後、自分は手札のカードを一枚ゲームから取り除く。
(ぬすみ)』:自分のライフを1点

。その後、自分はデッキの上からカードを一枚引く。

 この四枚で、ライフは9点残っている。
 対する、夕凪の手札は、

()』:自分のライフを1点増やす。
(さち)』:自分のライフを4点増やす。
(はな)』:自分はデッキの上からカードを一枚引く。その後、相手はデッキの上からカードを一枚引く。
(かばん)』:自分はデッキの上からカードを一枚引く。その後、自分は手札のカードを一枚デッキの一番下に送る。
(のろい)』:自分と相手は手札をすべてゲームから取り除く。その後、呪の効果でゲームから取り除いたカードの枚数分だけ、相手のライフを



 この五枚で、ライフは6点残っている。
 そして、デッキの状態は、

一枚目、『弓』(夕凪のドローカード)。
二枚目、『魔』(古賀のドローカード)。
三枚目、『銃』(夕凪のドローカード)。
四枚目、『罠』(古賀のドローカード)。
五枚目、『蘇』(夕凪のドローカード)。
六枚目、『宝』(古賀のドローカード)。

 このまま互いにドローし続ければ、七枚目にドローできない夕凪の敗北となる。
 となれば、夕凪はどこかでドロー補助系カードを用いて引く順番を変えてくるか。
 あるいは、その前に決着をつけようと特攻するか。
 古賀は負け筋を予測した。
 今は古賀のメインフェイズ中である。このターンに夕凪が『呪』を切った場合、『呪』を除く互いの手札合計八枚がゲームから取り除かれ、枚数分の8点が古賀のライフから引かれる。そして、次に夕凪が引く『弓』でフィニッシュ。古賀の負けである。これが、負け筋一つ目。
 次は、古賀が自分のメインフェイズでドロー補助系カードを使った場合……。使用するドロー補助系カードが『盗』だった場合、古賀のライフが1点減って8点に。ドローする『弓』は、夕凪が『呪』を使うであろう、このターンに即使用する。夕凪は『弓』で3点ダメージを受け、残りライフ3点に。古賀の手札が三枚(盾、爆、店)。夕凪の手札四枚(実、花、幸、鞄)。合計七枚の、7点ダメージを受けても、ギリギリ1点残る。古賀は死なない。しかし、次からドローフェイズで引くカードが変化し、

一枚目、『魔』(夕凪のドローカード)。
二枚目、『銃』(古賀のドローカード)。
三枚目、『罠』(夕凪のドローカード)。
四枚目、『蘇』(古賀のドローカード)。
五枚目、『宝』(夕凪のドローカード)。
六枚目、『盗』(古賀のドローカード)。
七枚目、『弓』(夕凪のドローカード)。

 終わりである。最悪の並びだ。
 一枚目のドローで夕凪が『魔』を持っているので、古賀は二枚目に手にする『銃』で攻撃できない。
 三枚目で夕凪が『罠』を手にするので、古賀は『蘇』が使えない。
 五枚目で手に入る『宝』を夕凪が使い、『盗』と『弓』を手にしたら、絶望の始まりだ。
 夕凪が持つ『弓』と『銃』と『罠』のダメージをすべて防ぐことができず、そのターンに古賀は敗北する。
「残り、五、四、三……」
「ッ!?」
 神宮寺のカウントが、古賀には時限爆弾のカウントダウンにきこえた。
「み、『店』を使います!」
 古賀は焦り、カードを切った。
「一枚ドロー!」
 引いたのは『弓』。コストで除外するのは、『爆』のカード。店はデッキ下へと送られた。
「さらに、『盗』を使います!」
 コスト1点を払い、ワンドロー。特殊系カードの『魔』を手にし、使用済みの『盗』はデッキ下へいく。
 古賀の残りライフは8点。
「ターンエンドです……」
 夕凪のターン。ドローフェイズで『銃』を引き、
「メインフェイズに入る」
「……!」
 死刑を宣告するような夕凪の強い口調に、古賀は怯んだ。
 ……そんな、どうして? どこで間違えたのですか? 一体、いつからわたしは

のですか?
 死の恐怖がじわじわと古賀の精神を蝕んでいく。
「わたしは、手札から『鞄』を場に出す」
 夕凪は一枚引く。手に入れた『罠』を手札に加え、『実』をデッキ下へ送った。
「続いて、手札から『呪』を場に出す」
「わ、わたっ、わたしは『魔』を使います!」
「『銃』を使う」
「『盾』で守りますッ!」
「『罠』を使い、『盾』の効果を変化させる」
「このッ……!」
 古賀は残り一枚の『弓』を出しかけて、やめた。『弓』で夕凪は殺せない。わかっている。これからやることは全部、無駄な足搔きだ。
 古賀は瞑目(めいもく)し、手に持っていた『弓』をテーブルに裏向きに置いた。
「……古賀。何か言い遺すことはあるか?」
 神宮寺にそうきかれ、古賀は、今にも泣き出しそうな、くぐもった声で答えた。
「教団の、仲間たちに……。伝えてください……。巫女は、故郷へ旅立った、と……。わたしのために、贄は必要ない、と……」
 古賀は唇を震わせながら、続ける。
「仲間たちに……。星の子供たち全員に……。愛している、と伝えてください……」
「わかった」
 神宮寺はテーブルに目を移した。
 場に出たカードの効果は、

①罠(夕凪)
②盾(古賀)
③銃(夕凪)
④魔(古賀)
⑤呪(夕凪)

 このように、①~⑤と処理されていく。
 まず、夕凪の『罠』が『盾』の効果を変化させ、『盾』の発動時、古賀は3点のダメージを受ける。残りライフは5点。
 盾としての効力を失った『盾』のカードで夕凪の『銃』の弾丸を防御することができず、5点ダメージが直撃。古賀のライフが、(ゼロ)になった。
 ……あぁ、お許しください〈星の神〉よ。わたしは、敗れました……。
 爆音とともに古賀の頭部が弾け飛び、おびただしい血が四方八方に散布された。
「〈バーン・オブ・ハイランダー〉。勝者、夕凪紫織」
 血と鉄のにおいが充満する部屋に、救済ゲームの終了を告げる神宮寺の声が響いた。
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