第9話 〈ミート・マーケット〉その①

文字数 2,417文字

 数回のテストプレイの後、神木が口を開いた。
「どうでしょう? ルールは理解できましたか?」
 無言で見つめ合う私と蛇沼。
 神木は質問無しと判断。デモプレイで使用したカードを回収し、ゲーム開始を告げた。
「互いに『1000P』取得済みなので……。〈マーケット〉側か〈バイヤー〉側か、始める順番を決めてください」
 私は拳をテーブルの上にのせた。
「ジャンケンで決めたいの?」
 蛇沼は別の方法で決めたいのか、拳を出さない。
「いいよ。神居さんが好きなほうを選んで」
「……いいの?」
「さっき、ルール説明のときにも言いましたが、あらゆる行動は一分以内に」
 神木が右腕に巻いた腕時計を指で叩いた。
「じゃあ……」
〈マーケット〉側か〈バイヤー〉側か。先にPを稼ぐなら〈マーケット〉側スタートがいいだろう。
「私が〈マーケット〉で」
「では、蛇沼様が〈バイヤー〉スタートということで。以降、ラウンドが変わっても、神居様が〈マーケット〉側から始まります」
 神木がリモコンを操作すると、テーブルの中央が引っ込み、カードを三枚のせて上がってきた。絵柄が見えない三枚の〈フードカード〉だ。私が先に一枚取り、続いて蛇沼も一枚取る。残った一枚は裏向きのままテーブルの内側に引っ込んだ。
 カードを確認。私は『すき焼き』だった。相互関係を合わせても最低『300P』は減る。相互関係を誤ればさらに減ってしまう。一番持ちたくないカードを引いてしまうとは運が悪い。
「では、〈マーケット〉の神居様。〈ミートカード〉を並べてください」
 私はテーブルの、自分側の穴から排出された三枚の〈ミートカード〉を取り、絵柄を裏にしてテーブルの上に並べた。
 蛇沼が持つ〈フードカード〉は『焼き鳥』か『角煮』のどちらかなので、『牛肉』を選んで相互関係を誤れば『300P』も削れて、尚且つ、私は『300P』を得ることができるが……。
「う~ん……。じゃあ、これにする」
 蛇沼は一枚選んで公開。『鶏肉』だった。みみっちい結果である。液晶パネルの数字が変化し、私は『1100P』。蛇沼の所持Pは『900P』に減った。
 裏側のままの『豚肉』と『牛肉』をまとめて排出穴に落とす。〈ミートカード〉だけは、並べたプレイヤーが処理する必要があった。
「へいらっしゃい! 蛇ちゃん肉屋でぇす!」
〈マーケット〉側に回った蛇沼が、ごっこ遊びみたく〈ミートカード〉を並べる。
「どれが『鶏肉』?」
「これだよ」
 指差したカードが本当に『鶏肉』だとは思えない。仮に本当だったとしても、私が欲しいのは『牛肉』。質問は、相手の反応を見るためのブラフだ。
 蛇沼は、私がどの肉を欲しがっているのか、二つはわかっている。そして、欲しがっているであろう二つを掴ませないように誘導するだろう。私だったらそうする。
 だから、指差したカードは私に取ってほしいカードの可能性が高い。つまり、ハズレのカードである。こちらのPを削るため、相互関係が合わないカードだ。
 私は蛇沼が指差したものとは違う、二枚の内から一枚取った。
 公開。『牛肉』だ。『300P』のマイナスだが、相互関係を合わせることには成功した。
 互いのPが変わる。私は『800P』。払ったPが加算され、蛇沼は『1200P』。
「では、手持ちのカードをすべて公開してください」
 私の手持ちは『すき焼き』と『牛肉』。蛇沼の手持ちは『焼き鳥』と『鶏肉』。互いに相互関係が合っているので、Pは変わらない。
 第一ラウンドが終了し、第二ラウンドへ移る。
 蛇沼が〈フードカード〉を先取。遅れて私も一枚取る。
 今回は『焼き鳥』。一番安い料理だった。相互関係が合えば、たった『100P』のマイナスで次のラウンドに移れるので、攻めるチャンスだ。
 再び、私が〈マーケット〉側スタート。〈ミートカード〉を裏向きでテーブルに並べた。
「これに決めた!」
 選択が早い。公開された〈ミートカード〉は『牛肉』。私は『300P』を得て、『1100P』と残数が大きく増えた。『300P』払った蛇沼は、『900P』と私よりも残数が下がる。
 役を代え、蛇沼が〈マーケット〉。私が〈バイヤー〉になった。
「蛇ちゃん肉屋です! さあ、ジャンジャン買っちゃってね!」
 ごっこ遊びに付き合う気はない。私はPを大きく減らさず次のラウンドへ行くため、慎重に選ぶことにした。
「どれが『鶏肉』?」
「神居さんは『鶏肉』が好きだねぇ。そんなにPを減らしたくないの?」
「Pがないと指を切ることになるからね」
「なら、特別に教えてあげるよ。これが『鶏肉』でぇす」
「じゃあ、その隣が『豚肉』?」
「違うよ」
「残ったカードが『牛肉』ね?」
「神居さんが持っているのは『焼き鳥』か。だから『鶏肉』が欲しいんだね」
 思わぬ反撃に、内心ドキリとしたが、表情には出さない。
「一番安いからに決まっているでしょう。仮に相互関係が間違っていても、ダメージを最小で抑えられるし」
「そうだね。じゃあ、『鶏肉』を取らないと」
 これだよこれ、と蛇沼はカードを指差す。
「後三十秒で決めてください」
「早く選ばないと~」
 ゲームマスターと対戦相手に煽られ、私はピキりかけた。
 いや、ダメだ。怒れば思考が乱れる。落ち着け。残り、二十五秒くらいか。ギリギリまで冷静に考えるのだ。
 蛇沼が指差したカードは本当に『鶏肉』なのか。第一ラウンドでは他の二枚に正解があったが、同じ手を二度も使うとは思えない。今回は逆張りの可能性を考慮し、蛇沼が指差すカードを取った。
「……ッ!」
 最悪。『牛肉』だ。『300P』を払って所持Pが『800P』に減り、蛇沼は『1200P』に増えた。
「それでは、公開してください」
 互いに手持ちのカードを公開。私は『焼き鳥』と『牛肉』。蛇沼は『すき焼き』と『牛肉』。相互関係が合わない私だけが『鶏肉』の『100P』を失い、所持Pは『700P』。せっかくの攻めのチャンスが、無駄に終わってしまった。
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