第17話 強制参加

文字数 1,939文字

「間に合わなかったか……」
 血の海と化したプレイルームに入り、神宮寺は舌打ちした。
「組員だけを殺すって話じゃあなかったのか? いつからプレイヤーまで殺すようになったんだ」
〈隻眼姫〉と〈勇者〉が振り返った、と同時に神宮寺は拳銃を抜き、構えた。
「動くな。死にたくなかったらな」
「そんな物で、わたしは殺せない」
〈隻眼姫〉はまったく動じず、神宮寺に歩み寄った。
「わたしは守られている。皮肉なことに、お前が属する組織によってな」
「俺も組織の保護下にある。資格の階級(グレード)は、俺のほうが上だ」
 ピタリ、と〈隻眼姫〉は歩みを止めた。
「お前は、違う。下っ端ではないのか……?」
「そうだ。俺は手前のような害悪プレイヤーを殺傷できる資格を持っている」
「それなのに、殺さないのか? お前、わたしに何かさせる気だな?」
「ゲームをしてもらう。対戦相手はこっちで用意する」
「断ったら?」

。俺はプレイヤーを選び、強制的に救済ゲームに参加させる資格も有している」
〈隻眼姫〉はニヤリと笑った。
「ようやく会えた。わたしは捜していたんだ。お前のような、(レベル)の高い〈神のしもべ〉を……」
「なら、もっと危機感を持て。俺が動くってことは、それだけ手前が好き放題に

ってことだ。(レベル)の高い〈神のしもべ〉に散々利用された挙句、消される覚悟はできているか?」
「その前にお前を消してやる」

。俺は手前がいる世界の

にいるんだ」
 タイミングを見計らって〈勇者〉が前に出た。
「姫様。あのモンスターを殺しましょうか?」
「……

、殺す必要はありません」
 ゲーム参加に同意した、と解釈し、神宮寺は「おい」と声を上げた。
 すると、プレイルームの出入口から五人の黒服の男がぞろぞろと入ってきて掃除を始めた。転がっている死体を片付け、洗剤をまき、そこら中に飛び散った血を布で丁寧に拭き取っていく。
「別の場所に移動するのは面倒だ。ここで使われたゲーム、〈バーン・オブ・ハイランダー〉で対戦してもらう」
 掃除が終わると、黒服たちと入れ替わるように、黒いローブをまとった、珍妙な格好の男女たちがプレイルームに入ってきた。
「おい、ちょっと待て。いったい何人でゲームをする気だ? 古賀一人で十分なんだよ」
「なるほど。遊戯は一対一で行うのですね」
 小柄な女性が一人、前に出てきて、蝶が羽を広げるみたいにローブを脱ぎ捨てた。〈隻眼姫〉に似た、長い黒髪の女性だが、前髪は両目がしっかり見えるよう綺麗に整えられている。ほとんど瞬かない切れ長の黒い目には、相対した者の心の底を見抜くような威圧感があった。
「お前がわたしの相手か」
「あなたがわたしの相手ですか」
 二人は真正面から睨み合った。
夕凪(ゆうなぎ)紫織(しおり)だ。〈黒染めの怪物(ドリーム・シェイド)〉と化した者に救いはない。わたしが始末してやる」
「古賀星です。〈星喰いの狂獣(スターズ・イーター)〉は我らに仇なす邪の化身。わたしが消滅させます」
 妄想合戦を始めた二人の周りでたむろする〈星神教団〉の信徒たちをプレイルーム外へと追い払い、神宮寺は言った。
「ゲームを行う。手前ら、さっさとそこにあるテーブルに向かい合って座れ」
「その前に、一つよろしいですか?」
 古賀が手を上げて発言する。
「救済遊戯の勝利時に獲得する報酬についてですが……」
「お友達を殺した神居玲緒奈を拘束して手前に差し出す。ゲームに勝てば、願いは必ず叶う」
「よろしい」
 古賀はニッコリ笑い、プレイルームの中央に設置されたテーブルに向かった。
「おい〈勇者〉……。いや、佐藤(さとう)(はじめ)だったか? 手前はゲームが終わるまで部屋の隅で待機していろ」
〈勇者〉、佐藤才は微動だにしない。目は虚ろで、まるで死人のようだ。しかし〈隻眼姫〉、夕凪紫織が待機を命じると佐藤は動き出し、プレイルームの隅に行って直立した。
「わたしからも一つ、お前に確認しておきたいことがある」
 神宮寺は首を巡らせ、夕凪を見た。
「なんだ?」
「これから行うのは救済ゲームだろう? なら、わたしにも願いを叶える権利が与えられるはずだ」
「ああ。手前が古賀に勝ったら、願いを一つだけ叶えてやる」
 もっとも、手前に組員殺しの資格を与えた奴と違い、俺には『願いを打ち消す力』があるがな。
「……お前は、わたしがこれまで出会ったしもべの誰よりも黒い」
 神宮寺の(よこしま)な考えを見透かすように、夕凪が言う。
「お前も、せいぜい

気をつけることだな」
「フン……」
 くだらん。神宮寺は右から左へ流し、夕凪と古賀が対面するテーブルに近づいた。
「改めて、名乗らせてもらう。手前らの勝負の審査役を務める神宮寺だ。これから〈バーン・オブ・ハイランダー〉のルール説明を行う。ルールは一度しか言わないから、しっかり頭に叩き込め。

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