第4話 バケモノ村
文字数 1,572文字
その村は□□県の深い緑の中に存在した。
ここには人間の皮を被った化け物たちが暮らす村があるらしい。
人間を生きたまま解体 して食すとか、骨や皮を使って家具を作ったりだとか、化け物たちが行う猟奇的な話を知り合いの組員からきかされた。
日常的に命の奪い合いが繰り広げられる無法地区 があるくらいなので、化け物が住む村が日本に実在していたとしても、今更、驚きはしない。
心配なのは、自分自身がその化け物たちの餌食になることだ。知り合いの組員に、明日の朝までに連絡がなければ捜してほしい、と行き先の座標を送っておいたが、結局のところ、そんなものはなんの自己防衛にもなりはしない。護身用に拳銃を一丁、懐に忍ばせてきたが、化け物たちに数で押されたらひとたまりもないだろう。
居場所を探知できるように携帯していた発信機は、少し前に、何故だか機能が停止してしまったし、携帯端末も
とはいえ、救済組織とこの村には……。厳密には、この村に住む
神木は運転していたハイエースを駐めた。そこは、救済組織から向かうよう伝えられていた地点。もう村の中なのだろうか。場所を間違えていなければ、ガイドと合流するはずだが……。
タイヤが隠れるほど伸びた雑草を踏み潰し、神木は周囲を見渡す。地面に立てられた木製の看板を発見。巻きついている蔓 を引き千切って、看板に書かれている文字を読む。
〈脳美祖村〉。〈のうみそ村〉ではなく、〈のびそ村〉で読み方は合っているだろうか。
「こんにちは」
背後から誰かに声をかけられて、神木はびくりとする。
振り返ると、そこには、柔和な笑みを浮かべた一人の老人が立っていた。
「あなたは……」
「話はきいているよ。兄ちゃんのお仲間さんからね」
老人はガイドだ、と神木は直感した。
「話とは、ゲームの件で間違いないですか?」
老人は頷いた。
「前田 勝田 という者です。道案内する前に、
「はい」
神木は着ているスーツのポケットから〈佐藤 匠 〉という名の男性の情報が詳細に書かれた紙を取り出し、前田に手渡した。
「ほほう。こいつぁ、なかなか……」
前田はぶつぶつ呟いた後、穿いているズボンとパンツの間に紙をねじ込んだ。
「よし。行こう」
「はい」
救済組織は、救済ゲームの参加候補者の中から適当に選んだ人物を化け物たちに回し、対価として、この村をゲーム場 の隠し所 として使わせてもらっているらしく、それだけで満足しない化け物たちは、ガイドを使うときも対価を求める。
佐藤匠という人物には悪いが、神木が安全に村へ行けるよう利用させてもらった。化け物たちが佐藤匠を何に使うのかわからないが、きっと、ロクな目にはあわないだろう。
「兄ちゃん。ゲームの参加者は車の中かい?」
「はい」
ゲームに参加する二人は、ハイエースの後部座席で眠っている。睡眠薬の効果が切れる前に、とっととゲーム場まで運びたいところだ。
「私が運転するので、一緒に乗って、目的地までの案内をお願いします」
「いやぁ、悪いが村には車で入れないんだ」
「え?」
「車はここに残して、兄ちゃんは参加者を背負うなり抱っこするなりして運んでくれ」
神木は溜息を吐いた。
前田に運搬の手伝いをさせるためには、きっと、別の対価が必要になる(それは用意していない)ので諦めるしかない。
「おーい。案内始めるよー」
「し、少々お待ちを!」
クソッ! こんなことになるなら手押し車でも積んでくるんだった!
心の中で文句を言いながら、神木はスヤスヤと寝息をたてる参加者二人を全力で抱え上げた。
ここには人間の皮を被った化け物たちが暮らす村があるらしい。
人間を生きたまま
日常的に命の奪い合いが繰り広げられる
心配なのは、自分自身がその化け物たちの餌食になることだ。知り合いの組員に、明日の朝までに連絡がなければ捜してほしい、と行き先の座標を送っておいたが、結局のところ、そんなものはなんの自己防衛にもなりはしない。護身用に拳銃を一丁、懐に忍ばせてきたが、化け物たちに数で押されたらひとたまりもないだろう。
居場所を探知できるように携帯していた発信機は、少し前に、何故だか機能が停止してしまったし、携帯端末も
都合よく
〈圏外〉である。今ここで化け物たちに狙われたら、普通に死ぬ。とはいえ、救済組織とこの村には……。厳密には、この村に住む
ある一族
との間には協力関係の糸が引かれているらしいので、利害がなければ、組織の組員は化け物たちからリンチにあわずに済む。……と言っていた知り合いの組員を信じるしかない。神木は運転していたハイエースを駐めた。そこは、救済組織から向かうよう伝えられていた地点。もう村の中なのだろうか。場所を間違えていなければ、ガイドと合流するはずだが……。
タイヤが隠れるほど伸びた雑草を踏み潰し、神木は周囲を見渡す。地面に立てられた木製の看板を発見。巻きついている
〈脳美祖村〉。〈のうみそ村〉ではなく、〈のびそ村〉で読み方は合っているだろうか。
「こんにちは」
背後から誰かに声をかけられて、神木はびくりとする。
振り返ると、そこには、柔和な笑みを浮かべた一人の老人が立っていた。
「あなたは……」
「話はきいているよ。兄ちゃんのお仲間さんからね」
老人はガイドだ、と神木は直感した。
「話とは、ゲームの件で間違いないですか?」
老人は頷いた。
「
例の物
を見せてくれるかい?」「はい」
神木は着ているスーツのポケットから〈
「ほほう。こいつぁ、なかなか……」
前田はぶつぶつ呟いた後、穿いているズボンとパンツの間に紙をねじ込んだ。
「よし。行こう」
「はい」
救済組織は、救済ゲームの参加候補者の中から適当に選んだ人物を化け物たちに回し、対価として、この村をゲーム
佐藤匠という人物には悪いが、神木が安全に村へ行けるよう利用させてもらった。化け物たちが佐藤匠を何に使うのかわからないが、きっと、ロクな目にはあわないだろう。
「兄ちゃん。ゲームの参加者は車の中かい?」
「はい」
ゲームに参加する二人は、ハイエースの後部座席で眠っている。睡眠薬の効果が切れる前に、とっととゲーム場まで運びたいところだ。
「私が運転するので、一緒に乗って、目的地までの案内をお願いします」
「いやぁ、悪いが村には車で入れないんだ」
「え?」
「車はここに残して、兄ちゃんは参加者を背負うなり抱っこするなりして運んでくれ」
神木は溜息を吐いた。
前田に運搬の手伝いをさせるためには、きっと、別の対価が必要になる(それは用意していない)ので諦めるしかない。
「おーい。案内始めるよー」
「し、少々お待ちを!」
クソッ! こんなことになるなら手押し車でも積んでくるんだった!
心の中で文句を言いながら、神木はスヤスヤと寝息をたてる参加者二人を全力で抱え上げた。