第22話 〈バーン・オブ・ハイランダー〉その③

文字数 3,954文字

「ドローフェイズ。メインフェイズ。ターンエンド」
 夕凪は、

(ふた)』:ライフを増やすカードの効果を一つだけ無効にする。

 回復系カード限定の無効化カードを手札に加え、終了を宣言した。
「ドローフェイズ。メインフェイズ。ターンエンド」
 古賀は、

(かばん)』:自分はデッキの上からカードを一枚引く。その後、自分は手札のカードを一枚デッキの一番下に送る。

 引いた『鞄』のカードを手札に残して、ターンを渡す。
「ドローフェイズ」
 夕凪は、

(わな)』:相手が使用したカードの効果を一つだけ選び、その効果を『自分のライフを3点

』に変更する。

 強力な特殊系カードを手に入れた。
「メインフェイズ。ターンエンド」
「ドローフェイズ」
 古賀は、

(かがみ)』:ライフにダメージを与えるカードの効果を一つだけ無効にし、与えるダメージ数分、相手のライフを



 回復系カードの効果を逆に作用させる防御系カードを引く。
「メインフェイズ。ターンエンド」
 夕凪と古賀は、互いにカードを引くだけのターンを繰り返した。
 しかし、次のターンで、
「ドローフェイズ」
 夕凪は引いたカードを見つめて、固まった。

(たから)』:自分はデッキの上からカードを二枚引く。

 これは、一ターン目で使用されたカードである。
 夕凪は、すべてのカードがプレイヤーのどちらかの手に渡り、そして、循環(ループ)が始まったことを知った。
「……メインフェイズ」
 初めて夕凪が長考する。『宝』を引いたということは、次に古賀が引くのは、一ターン目で『宝』の次に効果が発動し、デッキの一番下に戻った『店』のカードとなる。その次は……。
「夕凪さん。あなたが頭を使っている姿を見たのは初めてです」
 古賀は、夕凪の反応で、使われたカードが再びデッキトップに戻ってきたことを察した。
「残り三十秒」
 神宮寺はカウントを続けながら、夕凪を見た。
 ……さぁ、どうする? カードのループが始まってからが、本当の〈バーン・オブ・ハイランダー〉だぞ。
 これから両者が引くカードは、一度使用され、正しい順番でデッキに戻っていったカード。ゆえに、すり替えや偽装は不可能。並び順を記憶している神宮寺が、小細工をすべて止めることができる。
 とはいえ、夕凪も古賀も、そんな小細工はしないだろう。二人が使うのは、常人の力を越えた超能力だ。
 夕凪は、『自身に危険が及ぶカード』……。ライフを減らす攻撃系カードを、前髪で隠された右目で見分けられる能力を持っている。夕凪が持つ能力は救済ゲームで手に入れた資格とは違う、先天的なものだった。夕凪は生まれつき、危険という概念を物質として見ることができるのだ。
 対する古賀は、『自身の命を守るカード』……。回復系カードがどこにあるのか見える。この能力も、古賀が生まれつき持っていたものだ。古賀はこの能力を、〈星の神〉とかいう架空の神から与えられた能力だと思い込んでいる。古賀が語る神の話は全部妄想だが、能力だけは本物だった。
 神宮寺は、夕凪と古賀が持つ特殊能力を知っていた。知っていたから、あえて、その能力が使い物にならなくなるゲームを選んだのだ。〈バーン・オブ・ハイランダー〉は、カードのループが始まると、互いに何を引くのかわかるようになってしまうので、特殊能力を使った透視が無意味となる。夕凪と古賀は、純粋に、記憶力と戦略を駆使して戦わなければならないのだ。神宮寺には、このゲームを二人にやらせると決めた時点で、すでに、こうなる展開が見えていた。
 しかし、ここからは未知だった。どちらが勝つのか、まったく予想できない。
「ターンエンド」
 夕凪はカードを一枚も場に出さず、古賀にターンを渡した。
「ドローフェイズ」
 古賀が引くのは必然的に『店』。『宝』の後にデッキ下へ戻っていったカードである。
「メインフェイズ。ターンエンドです」
 次に夕凪が引くのは『盾』と確定している。
「わたしのターン。ドローフェイズ」
 夕凪は引いた『盾』を手札に加え、
「メインフェイズ。ターンエンド」
 あっさり古賀にターンを渡す。
「ドローフェイズ」
 古賀が引くカードも、やはり、一ターン目で使われた『銃』。一ターン目では、『盾』で防いだカードだ。
「メインフェイズに入ります」
「このタイミングで、わたしはカードを出す」
 入ってすぐ、夕凪が動いた。
 現在、夕凪の手札は、

(おの)』:相手のライフに4点のダメージを与える。
(やり)』:相手のライフに2点のダメージを与える。
()』:ゲームから取り除かれているカードを一枚選んで、自分の手札に加える。
(ふた)』:ライフを増やすカードの効果を一つだけ無効にする。
(わな)』:相手が使用したカードの効果を一つだけ選び、その効果を『自分のライフを3点

』に変更する。
(たから)』:自分はデッキの上からカードを二枚引く。
(たて)』:ライフにダメージを与えるカードの効果を一つだけ無効にする。

 この七枚。
 そして、場に出されたのは『蘇』のカードだった。これで、夕凪の手札は、残り六枚。
 ……なるほど。夕凪さんは手札が増えるのを待っていた、ということですか……。
 ゲームから取り除かれている『封』を取り戻し、古賀の手札を一気に減らす。その後、夕凪は手札が少ない古賀を一方的に叩く気でいたのだろう。
「フフッ、単純な戦略ですね」
 古賀は鼻で笑い、手札からカードを一枚選んだ。
 現在、古賀の手札は、

(くそ)』:自分のライフを2点増やし、相手のライフを2点


()』:カードの効果を一つだけ無効にする。ただし、『魔』の後に使われたカードの効果は無効にできない。
(かばん)』:自分はデッキの上からカードを一枚引く。その後、自分は手札のカードを一枚デッキの一番下に送る。
(かがみ)』:ライフにダメージを与えるカードの効果を一つだけ無効にし、与えるダメージ数分、相手のライフを


(みせ)』:自分はデッキの上からカードを一枚引く。その後、自分は手札のカードを一枚ゲームから取り除く。
(じゅう)』:相手のライフに5点のダメージを与える。

 この六枚。
「やはり素人……。いや、お馬鹿さんですね」
 古賀は『魔』を切った。対象は『蘇』。効果を無にし、紙切れへと変える。
「『罠』を使う」
 古賀の『魔』の効果を先に消すため、夕凪は『罠』を切った。『魔』の効果が『罠』で変化したことで、『蘇』は問題なく発動する。
 「わたしは『糞』を出します」
 夕凪の『罠』に、古賀の『糞』がチェーンする。
 五枚も手札が残っているのに、夕凪は何もしない。『蘇』で『封』を取り戻した後、古賀を一気に叩く作戦を実行中だから、手札をここで減らしたくないのだろう。
「『鞄』を出します。続けて、『店』を使います。『銃』も使います」
 古賀の手札に『鏡』だけが残った。
「夕凪。何もないか?」
 神宮寺にきかれ、夕凪は頷く。
「効果処理を始める」
 発動の順番は、

①銃(古賀)
②店(古賀)
③鞄(古賀)
④糞(古賀)
⑤罠(夕凪)
⑥魔(古賀)
⑦蘇(夕凪)

 ……となる。①~⑦へ、順番に効果処理を行う。
 まず、古賀が使った『銃』が撃ち込まれ、夕凪は5点ダメージを受ける。夕凪のライフが13点から、8点に減った。
 続いて、古賀の『店』が発動。引いたカードは、

()』:自分のライフを1点増やす。

 一ターン目で使ったザコ回復カードの『実』だった。『店』のコストで、古賀は『鏡』をゲームから除外した。
 そしてさらに、『鞄』の効果で古賀はワンドロー。引いたのは、

(さち)』:自分のライフを4点増やす。

 それなりに高い回復量の『幸』だった。鞄のコストで、『実』をデッキ下へ送る。その後、鞄もデッキ下へ行った。
「『幸』を使います」
 古賀は手に入れたばかりの『幸』を場に出した。ねじ込まれた『幸』の効果により、古賀は4点回復。残りライフが16点になった。
 続く『糞』の効果で、古賀は2点回復。夕凪のライフはマイナス2点。古賀のライフが18点に増え、夕凪のライフが8点から6点に減った。
 次に発動する夕凪の『罠』が、古賀の出した『魔』の効果を変化させる。古賀は変化した『罠』の効果で3点ライフを減らされ、残りライフ15点。『魔』がデッキ下へ行く。
 そして最後に、夕凪の『蘇』が発動する。
 ……どうせ、『封』でしょう? 夕凪さんの考えはお見通しです。
 手札を(ゼロ)にした古賀に、今更『封』など怖くない。
「夕凪。取り戻すカードはどれだ?」
「『剣』」
 それは、一ターン目で夕凪が『店』のコストとして除外した、

(けん)』:相手のライフに1点のダメージを与える。

 最弱の攻撃系カードだった。
 ……は? いやいや、どうしてですか? そんなもの、手札にあってもなんの役にも立たないでしょう。
 古賀は笑いを堪え、ポーカーフェイスで「エンドフェイズ」と言った。
 夕凪にターンが渡る。『剣』を取り戻した現在の夕凪の手札は、

(けん)』:相手のライフに1点のダメージを与える。
(やり)』:相手のライフに2点のダメージを与える。
(おの)』:相手のライフに4点のダメージを与える。
(たて)』:ライフにダメージを与えるカードの効果を一つだけ無効にする。
(ふた)』:ライフを増やすカードの効果を一つだけ無効にする。
(たから)』:自分はデッキの上からカードを二枚引く。

 この六枚だ。
 古賀の手札は(ゼロ)枚。
 夕凪の残りライフは6点なので、残りライフ15点の古賀のほうが、ライフでは勝っている。
 そして、夕凪が手札をすべて使っても、古賀のライフを(ゼロ)にはできない。
「…………」
 いや、ちょっと待て。これは、まさか。
 唐突に、古賀は危機感をおぼえた。
 たった今、一つの負け筋が頭の中に浮上したからだ。
 ……まさか、夕凪さんは

を狙っているのでは?
 絶対に無理だ、と古賀が否定した『呪』によるワンキル。
 それを可能にする方法が、

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