見参B-17 1
文字数 1,931文字
前進基地では搭乗員が足りず、上空警戒機すら出していなかった。二機の即時待機のみである。正面に広がる泊地で近々水上機隊が開隊するため、そちらに任されるらしい。
市と権藤は機体の整備に一区切りつけると海岸に出た。浜もあれば小さな崖もあり、散策にはちょうど良い。
二人はぶらぶらと歩き、ちょうど良い木陰によっこらしょっと坐ろうとした。
と、「ウ~」っと空襲警報である。
眼前に広がる東の空には何も見えない。と思ったら西のニューギニア方面から来るようだ。彼らは非番になので傍観を決め込んでいると、整備員が「分隊士~、分隊士はおられませんか~」と息せき切って呼びに来た。
「お二人とも滑走路まで来てください!」
「なに? われわれが上がるの?」
「はい」
権藤が(隊長め)と思ったとき、市はすでに走り出していた。
(おお、体のわりに早いな)
権藤は感心しながら急いで後を追った。
滑走路では市たちの二機がすでに発動機を始動している。近づくと富田が手を上げる。
「お二人に上がってくださいとのことです。ちょうど整備が終わったところだったので準備OKです。弾も込めました」
そうか、と権藤はニヤリとした。分遣隊長がどうだろうと彼は空戦に前向きである。どうせ第一小隊の奴らは雲がくれしているのだろうし。
「了解!」
二人はすぐさま操縦席に飛び込み、すばやく点検を終えるとチョークを払った。ちょうど上空にB-17が二機飛んで行く。完全に舐めており、高度は低く三千ぐらいだ。確かにこの基地に対空火器はほとんどない。だが軸線は外れており、どうやら沖合の泊地が狙いのようである。
離陸すると二人は単縦陣となり、全力で左に旋回上昇し、高度をとった。下を見ると、海上には爆撃の波紋が大量にできたが、艦船はまばらで被害もない。敵の意図は外れたようだ。
B-17ははるか東方に遠ざかったが、ニューギニア発ならばどこかで側程に入るかUターンするはずである。市たちは四千まで上がると東に直進した。少したってぽつんと見えてきた敵機が北に回り込んでいる。市たちも北に針路を変え、みるみる距離が詰まってきた。
敵機はどうやらそのまま眼前を突っ切るようだ。ちょうど敵の左上方から突っ込む態勢になった。敵は梯形を取っている。市は「二機で左の二番機をやる」と合図した。
市はバンクすると降下しながら左に捻り、緩横転を打ちながら巨大な胴体に迫った。二機からの射弾が向かって来るが、それらは後ろに流れていく。
こういう場合に被弾を避けるには、敵の銃座から見てxyzの三軸のうち少なくとも二軸をずらしながら接近せねばならない。しかし敵弾が当たりにくければ、当然こちらの弾も当たりにくい。要するに難しい攻撃なのだ。
市は射撃する寸前にロールを止め、いつもより長く発射レバーを握った。その二〇ミリは左翼の付け根に炸裂した。その後方を躱して真下から左に抜ける。この瞬間がもっとも緊迫する。命中させることに固執すれば、衝突の憂き目に会う。
権藤も続いて攻撃したが少し後落し、胴体に撃ち込んでしまった。二人は左側方で高度を取り直す。
動力銃座の弾道が舐めるように近づいてくる。市は弾道を跨ぐように操縦棹をぐいっと引く。敵と同航するときは撃たれやすく、常に位置関係が変わるように飛ばねばならない。
しかしB-17はどちらもシレっと飛んでいる。
(さすがに頑丈だな)
権藤は後ろに続いているが、少し様子がおかしい。機体を点検しているようだ。
(被弾したのかな?)
しかし大丈夫と言っている。市は迷ったがもう一度同じ方法で攻撃することにした。一回大きく離れて上昇し、ぐっと左上方から回り込む。敵二番機を観察すると翼内タンクからガソリンが漏れている。
この二回目は軸線上に近い位置から同じ場所に向けて攻撃に入る。また一番機が盛んに撃ってくる。降下するにつれて敵機は前にずれていく。
しかし市は機を捻りながら狙いを定め、発射レバーを握った。
彼にしては珍しくグワーっと全弾撃ち込んだ。今度は少し弾痕がばらけた。直下方に抜け、左に捻る。これで二〇ミリはもうない。
とその瞬間、敵の二番機は左翼の付け根からブワっと火を噴き、火だるまになった。がくんと左に傾き、降下し始める。彼らも市たちもすでにブーゲンビル島西方の遥か沖合に出ている。権藤も射撃したが途中で回避し、左側方に抜けた。
敵の一番機は、何事もなかったかのようにそのまま飛んで行く。だが二人とも二〇ミリは撃ち尽くしている。市はバンクし、攻撃を終えて帰投することにした。見ると、炎上する敵機からぽつんぽつんとパラシュートが出てくる。五つまで出たが残りは機上で戦死したのだろう。彼はまた片手で拝んだ。
市と権藤は機体の整備に一区切りつけると海岸に出た。浜もあれば小さな崖もあり、散策にはちょうど良い。
二人はぶらぶらと歩き、ちょうど良い木陰によっこらしょっと坐ろうとした。
と、「ウ~」っと空襲警報である。
眼前に広がる東の空には何も見えない。と思ったら西のニューギニア方面から来るようだ。彼らは非番になので傍観を決め込んでいると、整備員が「分隊士~、分隊士はおられませんか~」と息せき切って呼びに来た。
「お二人とも滑走路まで来てください!」
「なに? われわれが上がるの?」
「はい」
権藤が(隊長め)と思ったとき、市はすでに走り出していた。
(おお、体のわりに早いな)
権藤は感心しながら急いで後を追った。
滑走路では市たちの二機がすでに発動機を始動している。近づくと富田が手を上げる。
「お二人に上がってくださいとのことです。ちょうど整備が終わったところだったので準備OKです。弾も込めました」
そうか、と権藤はニヤリとした。分遣隊長がどうだろうと彼は空戦に前向きである。どうせ第一小隊の奴らは雲がくれしているのだろうし。
「了解!」
二人はすぐさま操縦席に飛び込み、すばやく点検を終えるとチョークを払った。ちょうど上空にB-17が二機飛んで行く。完全に舐めており、高度は低く三千ぐらいだ。確かにこの基地に対空火器はほとんどない。だが軸線は外れており、どうやら沖合の泊地が狙いのようである。
離陸すると二人は単縦陣となり、全力で左に旋回上昇し、高度をとった。下を見ると、海上には爆撃の波紋が大量にできたが、艦船はまばらで被害もない。敵の意図は外れたようだ。
B-17ははるか東方に遠ざかったが、ニューギニア発ならばどこかで側程に入るかUターンするはずである。市たちは四千まで上がると東に直進した。少したってぽつんと見えてきた敵機が北に回り込んでいる。市たちも北に針路を変え、みるみる距離が詰まってきた。
敵機はどうやらそのまま眼前を突っ切るようだ。ちょうど敵の左上方から突っ込む態勢になった。敵は梯形を取っている。市は「二機で左の二番機をやる」と合図した。
市はバンクすると降下しながら左に捻り、緩横転を打ちながら巨大な胴体に迫った。二機からの射弾が向かって来るが、それらは後ろに流れていく。
こういう場合に被弾を避けるには、敵の銃座から見てxyzの三軸のうち少なくとも二軸をずらしながら接近せねばならない。しかし敵弾が当たりにくければ、当然こちらの弾も当たりにくい。要するに難しい攻撃なのだ。
市は射撃する寸前にロールを止め、いつもより長く発射レバーを握った。その二〇ミリは左翼の付け根に炸裂した。その後方を躱して真下から左に抜ける。この瞬間がもっとも緊迫する。命中させることに固執すれば、衝突の憂き目に会う。
権藤も続いて攻撃したが少し後落し、胴体に撃ち込んでしまった。二人は左側方で高度を取り直す。
動力銃座の弾道が舐めるように近づいてくる。市は弾道を跨ぐように操縦棹をぐいっと引く。敵と同航するときは撃たれやすく、常に位置関係が変わるように飛ばねばならない。
しかしB-17はどちらもシレっと飛んでいる。
(さすがに頑丈だな)
権藤は後ろに続いているが、少し様子がおかしい。機体を点検しているようだ。
(被弾したのかな?)
しかし大丈夫と言っている。市は迷ったがもう一度同じ方法で攻撃することにした。一回大きく離れて上昇し、ぐっと左上方から回り込む。敵二番機を観察すると翼内タンクからガソリンが漏れている。
この二回目は軸線上に近い位置から同じ場所に向けて攻撃に入る。また一番機が盛んに撃ってくる。降下するにつれて敵機は前にずれていく。
しかし市は機を捻りながら狙いを定め、発射レバーを握った。
彼にしては珍しくグワーっと全弾撃ち込んだ。今度は少し弾痕がばらけた。直下方に抜け、左に捻る。これで二〇ミリはもうない。
とその瞬間、敵の二番機は左翼の付け根からブワっと火を噴き、火だるまになった。がくんと左に傾き、降下し始める。彼らも市たちもすでにブーゲンビル島西方の遥か沖合に出ている。権藤も射撃したが途中で回避し、左側方に抜けた。
敵の一番機は、何事もなかったかのようにそのまま飛んで行く。だが二人とも二〇ミリは撃ち尽くしている。市はバンクし、攻撃を終えて帰投することにした。見ると、炎上する敵機からぽつんぽつんとパラシュートが出てくる。五つまで出たが残りは機上で戦死したのだろう。彼はまた片手で拝んだ。
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