第20話
文字数 1,623文字
☆☆☆
スパイシードッグをほおばりながら、田中くんは、
「あさり先輩、ちーっす」
と、挨拶をした。
「二人、知り合いなの?」
わたしは驚いた。世間は狭いって本当だったのか?
人口の少ない田舎でも、うーん、田舎だからこそなのかな、とにかく、知り合いの知り合いが知り合いってのは、わたしの経験だと珍しい。
知り合いを四人くらいピックアップしてつなげていくと世界中の人間が知り合いだ、って、そんな研究もうろ覚えながら知ってるけど。
でも、びっくり。
「ブサイク田中! ちゃっかりまゆゆちゃんとデートしてるとは、許せないわね」
「デートじゃねぇすよ。それよりも、なんでここにいることがわかったので?」
「本屋で見かけたのよ」
「それ、すっごく時間的には前の話なんですが」
「えーえー。わたしはまゆゆちゃんのことが大好きなストーカーですよー。ずっと、機会をうかがってたらこんな時間になってしまったんですよー。ちなみに、本屋から後ろをつけてたわたしは、バーガークイーンに入ると、一階のカウンター席でうじうじしながらてりたまバーガー食ってました」
一瞬、先輩がキャラ崩壊を起こしたのではないか、と思ったけれど、そうじゃないんだよね。
あさり先輩とわたしが会ったのは今日がはじめてだし、わたしが田中くんとこうしてしゃべったのも、はじめてで。
だからノリなんてわからなくて当然だ。
わたしは、なにも知らない。二人のこと。
あさり先輩は口元のマフラーをもふもふさせながら、わたしの横の席に座った。四人用の席だったのだ。
「まゆゆ。気をつけろよ。先輩はウェブ小説を書いておられる、根っからの根暗文学少女。趣味が小説執筆だっていう、ものすごく〈痛いひと〉なんだ。小学生の時はやんちゃな子だったのに、どうして文学なんかにハマるかなぁ……」
なんとなく掴めたが、田中くん史観では、文学を志すものは〈痛いひと〉なんだ、というのがわかった。
否定はしないけど。
でも。
「わ、わたしも小説、好きよ、先輩!」
「まゆゆちゃーん」
隣の席にいるあさり先輩はわたしに抱きついてきた。
マフラーを下にずり下げて。
それで、ほおずりする。
耳を軽くかむ。
かんだついでに耳に吐息を吹きかける。
「かわいぃ」
「うー、せ、先輩……。あっ、いやっ、くぅッ、んん」
「よがっちゃって。かわいいね、まゆゆ」
呆然とそれを見ていた田中くんは、
「先輩。セクハラですよ、それ。店内でやめた方が身のためっす」
と、上気した顔をしながら、あさり先輩に向けて話す。
「田中は、こういうとこきちんとしてるのね。いつからそうなったのかしら。モデルガンの銃口を教師に向けるって発想は、昔の田中っぽかったから聞いて笑ったけど」
「ここでその話題かよ」
「桜田さん。かわいそうだったわね」
「ああ」
石原と、肉体関係を持った生徒であるという、桜田さんという女子の名前を出すと、場は静まった。
「田中は、クソ教師・石原からNTR(寝取られ)を発動して、桜田さんを奪っちゃえばよかったのよ」
「そうもいくかよ。おれはムカついたからモデルガンを撃った。桜田は関係ない」
「へぇ……。言うようになったわね」
「なぁ、先輩。おれたちが会話しなくなってからどのくらい経ったと思う」
「中学に入ってしばらくしたら、もう話さなくなっちゃったね」
「だろ。人間、変わるってことよ。男は特に三日会わないと様変わりするっつー故事があるはずだぜ」
「それもそうねぇ。……じゃなかった! まゆゆちゃん、携帯電話の番号とメアド。交換しましょ」
「あ、はい」
そのままわきゃわきゃと時間が進む。
家になんて帰りたくないな。
でも、帰らないと大変な目に遭うな。
そわそわが止まらなくなってきた。
だって、殴られるのも蹴られるのも、嫌いだもん。それも親によって、殴られるなんて。
スパイシードッグをほおばりながら、田中くんは、
「あさり先輩、ちーっす」
と、挨拶をした。
「二人、知り合いなの?」
わたしは驚いた。世間は狭いって本当だったのか?
人口の少ない田舎でも、うーん、田舎だからこそなのかな、とにかく、知り合いの知り合いが知り合いってのは、わたしの経験だと珍しい。
知り合いを四人くらいピックアップしてつなげていくと世界中の人間が知り合いだ、って、そんな研究もうろ覚えながら知ってるけど。
でも、びっくり。
「ブサイク田中! ちゃっかりまゆゆちゃんとデートしてるとは、許せないわね」
「デートじゃねぇすよ。それよりも、なんでここにいることがわかったので?」
「本屋で見かけたのよ」
「それ、すっごく時間的には前の話なんですが」
「えーえー。わたしはまゆゆちゃんのことが大好きなストーカーですよー。ずっと、機会をうかがってたらこんな時間になってしまったんですよー。ちなみに、本屋から後ろをつけてたわたしは、バーガークイーンに入ると、一階のカウンター席でうじうじしながらてりたまバーガー食ってました」
一瞬、先輩がキャラ崩壊を起こしたのではないか、と思ったけれど、そうじゃないんだよね。
あさり先輩とわたしが会ったのは今日がはじめてだし、わたしが田中くんとこうしてしゃべったのも、はじめてで。
だからノリなんてわからなくて当然だ。
わたしは、なにも知らない。二人のこと。
あさり先輩は口元のマフラーをもふもふさせながら、わたしの横の席に座った。四人用の席だったのだ。
「まゆゆ。気をつけろよ。先輩はウェブ小説を書いておられる、根っからの根暗文学少女。趣味が小説執筆だっていう、ものすごく〈痛いひと〉なんだ。小学生の時はやんちゃな子だったのに、どうして文学なんかにハマるかなぁ……」
なんとなく掴めたが、田中くん史観では、文学を志すものは〈痛いひと〉なんだ、というのがわかった。
否定はしないけど。
でも。
「わ、わたしも小説、好きよ、先輩!」
「まゆゆちゃーん」
隣の席にいるあさり先輩はわたしに抱きついてきた。
マフラーを下にずり下げて。
それで、ほおずりする。
耳を軽くかむ。
かんだついでに耳に吐息を吹きかける。
「かわいぃ」
「うー、せ、先輩……。あっ、いやっ、くぅッ、んん」
「よがっちゃって。かわいいね、まゆゆ」
呆然とそれを見ていた田中くんは、
「先輩。セクハラですよ、それ。店内でやめた方が身のためっす」
と、上気した顔をしながら、あさり先輩に向けて話す。
「田中は、こういうとこきちんとしてるのね。いつからそうなったのかしら。モデルガンの銃口を教師に向けるって発想は、昔の田中っぽかったから聞いて笑ったけど」
「ここでその話題かよ」
「桜田さん。かわいそうだったわね」
「ああ」
石原と、肉体関係を持った生徒であるという、桜田さんという女子の名前を出すと、場は静まった。
「田中は、クソ教師・石原からNTR(寝取られ)を発動して、桜田さんを奪っちゃえばよかったのよ」
「そうもいくかよ。おれはムカついたからモデルガンを撃った。桜田は関係ない」
「へぇ……。言うようになったわね」
「なぁ、先輩。おれたちが会話しなくなってからどのくらい経ったと思う」
「中学に入ってしばらくしたら、もう話さなくなっちゃったね」
「だろ。人間、変わるってことよ。男は特に三日会わないと様変わりするっつー故事があるはずだぜ」
「それもそうねぇ。……じゃなかった! まゆゆちゃん、携帯電話の番号とメアド。交換しましょ」
「あ、はい」
そのままわきゃわきゃと時間が進む。
家になんて帰りたくないな。
でも、帰らないと大変な目に遭うな。
そわそわが止まらなくなってきた。
だって、殴られるのも蹴られるのも、嫌いだもん。それも親によって、殴られるなんて。