第6話

文字数 1,214文字

     ☆☆☆



 庭園の奥に御殿が建っていて、そこが〈ギルド〉だった。
 庭の池を橋で渡る。わたしはトゲのある植物で縛られたまま、連行されるかたちで建物に入っていく。
 その頃にはうまく身体が自然解凍されている。
 開くとその中にあったのは、病院のロビーのような、殺風景な空間だった。
 長いすとテレビ。新聞や雑誌は、古びたバックナンバーを中心にして置かれていて、長テーブルではカードゲームをするマットが敷かれている。待合室のような、合宿場のような。
 むろん、いるのは少女ばかりだ。
 植物から手をほどかれたわたしは長いすに吹き飛ばされた。手首が血だらけになっている。
 だが、ここにいるほとんどの人間は、わたしに興味を示さず、個々人のやりたいことやらやるべきことをやっている雰囲気。
 外装は御殿だが、中身は打ちっ放しのコンクリートで、上を見上げると配管が通っているのも見える。
 空調は効いていて、ごーごー音を絶えず立てている。
「さて。人材が足りないのよ。おわかりになって?」
 きらりが両手で自分の身体を抱くようにしたポーズで、そう言う。
「あなたは『夏祭り』ハイスコア者。その力が借りたいの。トップの成績のあなたを、ね」
「わたしのどこがトップなんだよぉ」
 手首が痛くて、泣きそうな声でわたしは返す。ずたぼろだよ、わたし。
 さっきまでわたしを植物で傷つけていたまーぶるが魔法のステッキを抱きしめながら近づいてくる。
 長いすに倒れているわたしの前に立つと、まーぶるはわたしの前髪を手で掴み、引き上げる。
 わたしの顔も一緒に引き上げられる。
 まーぶるの目とわたしの目が合う位置にくる。
「バカでちね。自分がどちらの陣営か、わかってるんでちょうが、のーみそパンクでそれどころじゃないでちか?」
 きらりがわたしの横に腰掛ける。
「二十年の月日が経った。正確には、電脳線の中での二十年が、ね。電脳線の中の存在になったわたしたち魔法少女は、一度勝った魔法剥奪者との戦いで、惨敗した。インターネットミームで力をブーストした奴らに勝てなかった。その結果がこれ。現実では三日しか経ってないのに、位相が変わってしまった。時空がねじ曲げられて、日本の東京の2010年代は崩壊していたの」
「これを、『地下鉄戦争』と呼ぶでちよ。覚えておくといいでち」
「元々ネットでのミーム、気分による感染が原因でこうなったから、電脳線の中に入って討伐し、相手を根絶する必要があった。でも、ダメだったわ」
「覚えたでちか?」
 まーぶるがわたしの前髪から手を離し、肩を突き飛ばした。長いすに叩きつけられ、痛い。
「部屋に案内するでち。今日はもう眠って、明日、身の振り方考えろでちー」

 そして連れていかれたのは、独房だった。
「おっと。逃げるなんて考えない方がいいでちよ」
「…………」
 わたしは声を出すのも出来なくなっていた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み