第1話
文字数 2,738文字
がたっと教室で音がした。
椅子をひいて席から立ち上がった音だ。
席から立ち上がったのは田中くんだった。
「おい、石原! てめぇの顔を数学の授業のたび見るのが気にくわねぇ……」
田中くんはピストルを構え。
「……んだよッッッ!」
ピストルの弾を数学教師・石原の脳天にぶち込んだ。
血しぶき。石原の脳漿が飛び散る。
いきなりのことでわたしは唖然としてその光景を眺めた。
なにもしてないのに田中くんが壊れた、と思った。
冷静にそんなことを考えてたのはわたしだけだったみたいで、教室は阿鼻叫喚に包まれた。
女子はキャーキャー騒ぐが、男子の数人は義侠心を刺激されたのか、「てめっ! 田中ッ」とか叫んで田中くんに突進していった。
最初の一人が飛び込むと、やはりピストルを脳天に撃ち込まれる。それに構わず次の一人が屍を越えて飛び込もうとしても、結果は同じ。ピストルの餌食になって果てた。
教室からダッシュで抜け出すクラスメイト達。
「まゆゆ。ヤバいって。わたしたちも逃げようよ」
さなえが言う。
「そうだよまゆゆ。まゆゆってばいつもぽーっとして。死んじゃうよ?」
みかもそう言って、わたしの手を引く。
わたし、さなえ、みかの三人も、みんなに遅れて教室を抜け出す。
「一夜限りの夢だとしても、これは嫌だよね……。田中くん、ブサイクだし」
みかがそう言って震える。
「一夜限りって、白昼夢ってこと? そうね、それは言える。でも、田中くんの顔のことは言わないであげて。ただ、ブサイクに生まれてきてしまっただけなんだから」
「ひでぇ」
さなえの返しに、みかはぷぷぷっと噴き出した。
そう、田中くんって教室ではそんなポジションの男の子。さっきも石原の顔が気にくわないってわめいてたけど、そういうことなのかな。
わたしたちがそんなやりとりをしてる間も、田中くんのハック&スラッシュは続く。
ハック&スラッシュ。ただ、殺して、殺すことが目的になっちゃってる。そこにはきっと物語性は、ない。自分と一回もしゃべったこともないような生徒たちを惨殺しはじめている。
しかし、田中くんは一人だ。校舎から出ても騒ぎがやまないのは、暴走し、シリアルキラーになった田中くんだけのせいではないようだった。
みんな、校舎内に立てこもる田中くんの発砲音を聞きながら、スマホの画面を眺めている。
わたしのところにもニュースアプリから速報が流れてくる。
読むと、
『同時多発学校銃乱射事件発生!』
という文字が躍っていた。
全国の学校で、この場の田中くんみたいな奴らが大量に同時発生しているのだ。
生徒の中には、動画サイトを見ている生徒もいる。もう、動画撮影をしはじめているひとたちの投稿がはじまっているのだ。
「不謹慎……」
みかがぼそりと呟いた。
「SNSにコメント投稿しよーかしら」
さなえも本気なんだかギャグなんだかわからないことを言う。ギャグにしても笑えない。こんなことに「いいね!」でもして欲しいのだろうか。
わたしは、二人に向けて、いや、誰にでもなく、言う。
「これは、『なにもしてないのに壊れた』んじゃない……」
「へ? いきなりなに言ってんの」
さなえが首を傾げる。
「わたし、わかっちゃったんだ」
わたしの中に、確信が芽生える。
わたしはイメージする。
イメージ。
魔法のステッキ。
念じた途端、魔法のステッキは具現化して、わたしの手に握られる。
そして、魔法のドレス。
わたしの脳内で時計の針が十二時を指す。
すると、わたしのセーラー服は魔法のドレスになった。
「ま、ま、ま……」
さなえがわたしを震える手で指さす。
「「魔法少女!?」」
さなえとみかは声をシンクロさせて、驚く。
うん。わたしも驚いた。
ううん。でも、わかっちゃったんだ、どうしよう。
深呼吸をひとつして、わたしは息を整える。
「インターネット・ミームって言葉があるんだ。インターネットを通じて気分が『感染』して、『模倣』が広がること。拡散」
校舎からピストルを構えた田中くんが飛び出てくる。
なにか叫んでいる。
叫んでいる相手も、ピストルを向けてる相手も、このわたし。
わたしを、田中くんは殺そうとして、走ってくるのだ。
「ウィルスが感染したように、シリアルキラーは生まれることがある。元々心の中に火薬がいっぱい詰まっちゃったところに、導火線が引かれて、そこになにかのきっかけで点火されちゃったら、爆発するよね。その点火が、インターネットの影響だったりすることも、現代ではよくある。良い表現の連鎖で、インターネット・ミーム、模倣が発動することもあるけど、田中くんたち、今の銃乱射の同時多発は、悪い雰囲気の気分が感染しちゃって、こうなってるみたい」
そう、これはわたしの仮説にすぎない。
でも。
「魔法少女も、感染してできあがるの。こういう風に」
うおおおおおおおお、と雄叫びを上げ、ピストルを発射する田中くん。
わたしは魔法のステッキをスィングさせ、リフレクター、反射障壁を発動させる。
「拡散性・魔法少女……そのひとりが。わたし」
リフレクターに弾かれたピストルの弾丸が田中くんの胸に撃ち込まれる。
そこに、ニュースアプリから速報。
『全国に、同時多発的に魔法少女が出現。シリアルキラーたちと応戦か?』
そのニュースに目を丸くするさなえとみか。そして、その場にいる他のひとたち。
胸を弾丸が貫通した田中くんは、血を流しながらも、まだこっちに突進してくるのをやめない。
「わたし、魔法少女、始めました!!」
舌を出して微笑むわたしはそれから、目を閉じ、念じる。
届け、わたしの祈り。
「まゆゆアローーーーーーーーーーーーー」
光の束が収束し、魔法のステッキに集まると、わたしはその光の束をレーザーアローにして田中くんに発射した。
まゆゆアローが直撃した田中くんは、断末魔の、なんとも言えない言葉を発しながら消えていく。
「うう……。まゆゆ、技の名前……ダサい……」
「どちらかというと展開自体がすでにダサいけど……」
さなえとみかがぶつぶつ漏らす中、学校中は色めきだった。
緊張が一気に解かれたのだ。
当然!
そして、わたしは魔法少女……って、あれ。
ーーーー魔法が、解かれていくーーーー。
ステッキは消え、服も元に戻った。
わたしの元に駆けつける全校生徒。
その中で。
わたしは倒れる。
でも、いいんだ。
これがもしも、一夜限りの夢だとしたって……。
わたし、魔法少女に、なれたんだから。
椅子をひいて席から立ち上がった音だ。
席から立ち上がったのは田中くんだった。
「おい、石原! てめぇの顔を数学の授業のたび見るのが気にくわねぇ……」
田中くんはピストルを構え。
「……んだよッッッ!」
ピストルの弾を数学教師・石原の脳天にぶち込んだ。
血しぶき。石原の脳漿が飛び散る。
いきなりのことでわたしは唖然としてその光景を眺めた。
なにもしてないのに田中くんが壊れた、と思った。
冷静にそんなことを考えてたのはわたしだけだったみたいで、教室は阿鼻叫喚に包まれた。
女子はキャーキャー騒ぐが、男子の数人は義侠心を刺激されたのか、「てめっ! 田中ッ」とか叫んで田中くんに突進していった。
最初の一人が飛び込むと、やはりピストルを脳天に撃ち込まれる。それに構わず次の一人が屍を越えて飛び込もうとしても、結果は同じ。ピストルの餌食になって果てた。
教室からダッシュで抜け出すクラスメイト達。
「まゆゆ。ヤバいって。わたしたちも逃げようよ」
さなえが言う。
「そうだよまゆゆ。まゆゆってばいつもぽーっとして。死んじゃうよ?」
みかもそう言って、わたしの手を引く。
わたし、さなえ、みかの三人も、みんなに遅れて教室を抜け出す。
「一夜限りの夢だとしても、これは嫌だよね……。田中くん、ブサイクだし」
みかがそう言って震える。
「一夜限りって、白昼夢ってこと? そうね、それは言える。でも、田中くんの顔のことは言わないであげて。ただ、ブサイクに生まれてきてしまっただけなんだから」
「ひでぇ」
さなえの返しに、みかはぷぷぷっと噴き出した。
そう、田中くんって教室ではそんなポジションの男の子。さっきも石原の顔が気にくわないってわめいてたけど、そういうことなのかな。
わたしたちがそんなやりとりをしてる間も、田中くんのハック&スラッシュは続く。
ハック&スラッシュ。ただ、殺して、殺すことが目的になっちゃってる。そこにはきっと物語性は、ない。自分と一回もしゃべったこともないような生徒たちを惨殺しはじめている。
しかし、田中くんは一人だ。校舎から出ても騒ぎがやまないのは、暴走し、シリアルキラーになった田中くんだけのせいではないようだった。
みんな、校舎内に立てこもる田中くんの発砲音を聞きながら、スマホの画面を眺めている。
わたしのところにもニュースアプリから速報が流れてくる。
読むと、
『同時多発学校銃乱射事件発生!』
という文字が躍っていた。
全国の学校で、この場の田中くんみたいな奴らが大量に同時発生しているのだ。
生徒の中には、動画サイトを見ている生徒もいる。もう、動画撮影をしはじめているひとたちの投稿がはじまっているのだ。
「不謹慎……」
みかがぼそりと呟いた。
「SNSにコメント投稿しよーかしら」
さなえも本気なんだかギャグなんだかわからないことを言う。ギャグにしても笑えない。こんなことに「いいね!」でもして欲しいのだろうか。
わたしは、二人に向けて、いや、誰にでもなく、言う。
「これは、『なにもしてないのに壊れた』んじゃない……」
「へ? いきなりなに言ってんの」
さなえが首を傾げる。
「わたし、わかっちゃったんだ」
わたしの中に、確信が芽生える。
わたしはイメージする。
イメージ。
魔法のステッキ。
念じた途端、魔法のステッキは具現化して、わたしの手に握られる。
そして、魔法のドレス。
わたしの脳内で時計の針が十二時を指す。
すると、わたしのセーラー服は魔法のドレスになった。
「ま、ま、ま……」
さなえがわたしを震える手で指さす。
「「魔法少女!?」」
さなえとみかは声をシンクロさせて、驚く。
うん。わたしも驚いた。
ううん。でも、わかっちゃったんだ、どうしよう。
深呼吸をひとつして、わたしは息を整える。
「インターネット・ミームって言葉があるんだ。インターネットを通じて気分が『感染』して、『模倣』が広がること。拡散」
校舎からピストルを構えた田中くんが飛び出てくる。
なにか叫んでいる。
叫んでいる相手も、ピストルを向けてる相手も、このわたし。
わたしを、田中くんは殺そうとして、走ってくるのだ。
「ウィルスが感染したように、シリアルキラーは生まれることがある。元々心の中に火薬がいっぱい詰まっちゃったところに、導火線が引かれて、そこになにかのきっかけで点火されちゃったら、爆発するよね。その点火が、インターネットの影響だったりすることも、現代ではよくある。良い表現の連鎖で、インターネット・ミーム、模倣が発動することもあるけど、田中くんたち、今の銃乱射の同時多発は、悪い雰囲気の気分が感染しちゃって、こうなってるみたい」
そう、これはわたしの仮説にすぎない。
でも。
「魔法少女も、感染してできあがるの。こういう風に」
うおおおおおおおお、と雄叫びを上げ、ピストルを発射する田中くん。
わたしは魔法のステッキをスィングさせ、リフレクター、反射障壁を発動させる。
「拡散性・魔法少女……そのひとりが。わたし」
リフレクターに弾かれたピストルの弾丸が田中くんの胸に撃ち込まれる。
そこに、ニュースアプリから速報。
『全国に、同時多発的に魔法少女が出現。シリアルキラーたちと応戦か?』
そのニュースに目を丸くするさなえとみか。そして、その場にいる他のひとたち。
胸を弾丸が貫通した田中くんは、血を流しながらも、まだこっちに突進してくるのをやめない。
「わたし、魔法少女、始めました!!」
舌を出して微笑むわたしはそれから、目を閉じ、念じる。
届け、わたしの祈り。
「まゆゆアローーーーーーーーーーーーー」
光の束が収束し、魔法のステッキに集まると、わたしはその光の束をレーザーアローにして田中くんに発射した。
まゆゆアローが直撃した田中くんは、断末魔の、なんとも言えない言葉を発しながら消えていく。
「うう……。まゆゆ、技の名前……ダサい……」
「どちらかというと展開自体がすでにダサいけど……」
さなえとみかがぶつぶつ漏らす中、学校中は色めきだった。
緊張が一気に解かれたのだ。
当然!
そして、わたしは魔法少女……って、あれ。
ーーーー魔法が、解かれていくーーーー。
ステッキは消え、服も元に戻った。
わたしの元に駆けつける全校生徒。
その中で。
わたしは倒れる。
でも、いいんだ。
これがもしも、一夜限りの夢だとしたって……。
わたし、魔法少女に、なれたんだから。