第26話
文字数 1,965文字
☆☆☆
大神駅の、駅前商店街。ドラッグストア横の甘味処。
わたしとあさり先輩は、あんみつパフェを食べる。
店内はほどよい客の入りで、話し声と店内BGMの関係で、わたしらの会話は聞こえないはずだ。
これならちゃんと話せる。
先輩は、今もブレザーのポケットに手を突っ込んでいる。両手とも。
パフェを食べるときだけ、手をポケットから、出す。
中学生がこんな時間にこんなところにいて補導されないかなぁ、と若干心配したが、先輩と向かい合っていると、だんだんと不安は薄れていく。
先輩は、店内でもマフラーをぐるぐるに巻いているが、口から下に、マフラーはずらしてある。あんみつパフェを食べるためである。
「この世界を構成する、魔法少女という『モジュール』の作用は、〈あらざるべきもの〉を退治するためにある。モジュールだから、取り替え可能。そんなところかしら。だから、特別でもなんでもないのよ。おとしめてるわけじゃない。気負わなくても大丈夫よ、ということ」
「先輩は、なにを知っているんですか。全てを見通しているかのようにみえます」
「DVも、『個別化の原理の障害』なのでしょうね。自分と他人の境界線があいまいだから、気にくわないことに過剰反応する。言い換えれば〈自分の言うとおりにならないのがムカつく〉。これも、病気よね。でも、DVをしてる人間の大半には『病識』が、ない」
「先輩のお話、難しいですよー」
わたし、ちょっと泣きが入る。
今のわたしも、そして先輩も、服装はうちの学校の制服だ。
話しながら補導されないかとびくついている。
でも、あの『魔物』を二体殺したことについては、なんとも思わない。
でも。
「これから、どうしよう……」
先輩は、ふむ、と頷いてから、
「一緒にネットカフェに泊まりましょう」
と、満足げに言い、頬を赤くした。
わかるんだ。それ。ネットカフェを一室借りて二人で入ると、密着しないとならないんだよね。
特に狭い部屋だと。
一緒にいたい。
だから提案に乗る。
「行きましょう、ネカフェ!」
先輩との初めてのお泊まり会は、インターネットカフェになったのだった。
ちょっと、どきどき。
商店街を歩く。夜の店がひしめき合っている。制服だから、完全に浮いちゃってる。
けど、さすがに声をかけてくるひとはいなかったので、よかった。
甘味処から外に出たとき、一匹の黒猫が走ってきて、にゃーん、と鳴いて、あさり先輩の肩の上に乗った。乗ったらまた、にゃーん、と鳴いた。
「せ、先輩になついてますね。……飼い猫ですか、先輩の?」
「違うわ」
先輩は猫のあごをなでる。
「この黒猫は、千鶴先生よ」
「はい?」
「いや、だから、この猫は千鶴先生よ」
先輩によると、夜の偵察には、黒猫の姿が一番、情報収集率がよいのだという。
黒猫が本当に千鶴先生なのかはさておき、ネットカフェに猫を連れながら入った。
ペットは入れないっすよー、と店員に言われると、先輩は、
「ペットじゃないわ。これはうちの保健の先生よ」
と、主張する。
押し問答が始まり、しばらくすると、店員が折れた。
「わーったよ。しもの面倒は見れるんだろうな」
「大丈夫よ」
「わーった、わーった。入れてやるよ」
わたしは、
「ありがとうございます!」
と、店員に頭を下げた。
「お嬢ちゃんの方に免じて、だな。この素行の悪そうな眼鏡マフラーは信用ならねぇ」
「入れるなら、行きましょ。部屋を用意して」
「はいよ」
わたしたちは、深夜パックを選び、朝までネカフェにいることにしたのだった。
……ここで叙述トリック。
なんで店員さんは猫を許可したでしょうか。
答え。
店員はバイトの、田中くんで、知り合いだったから。
クラスメイトの不良行為にも似たネカフェのお泊まりを、バイト禁止の中バイトしている田中くんは許可したのだった。
「で、田中くんは病院に行ったのかな」
わたしが尋ねると、
「ああ。病院に行った。行く前、学級裁判が行われたよ。岡田も主犯として親を学校に呼ばれることになったし。桜田は帰ってこないけどな。……かわいそうといや、まゆゆ、おまえといつも一緒のみかって奴が、岡田が悪者扱いされて泣いてたぜ。学年主任の英田が乗り込んできて岡田を悪者として扱ったから、みんな英田の学年主任って肩書きにびびってうんうん頷いて岡田が悪いことになって、その彼女であるみかって子が泣いた。泣いたけど、みんな素知らぬふりさ。学級裁判にかけて学年主任の英田を連れてきたほどの奴らだったからな」
田中くんは歯が抜けた口で笑う。
「たいした出来事でもないさ」
嬉しそうな笑顔の田中くんだった。
大神駅の、駅前商店街。ドラッグストア横の甘味処。
わたしとあさり先輩は、あんみつパフェを食べる。
店内はほどよい客の入りで、話し声と店内BGMの関係で、わたしらの会話は聞こえないはずだ。
これならちゃんと話せる。
先輩は、今もブレザーのポケットに手を突っ込んでいる。両手とも。
パフェを食べるときだけ、手をポケットから、出す。
中学生がこんな時間にこんなところにいて補導されないかなぁ、と若干心配したが、先輩と向かい合っていると、だんだんと不安は薄れていく。
先輩は、店内でもマフラーをぐるぐるに巻いているが、口から下に、マフラーはずらしてある。あんみつパフェを食べるためである。
「この世界を構成する、魔法少女という『モジュール』の作用は、〈あらざるべきもの〉を退治するためにある。モジュールだから、取り替え可能。そんなところかしら。だから、特別でもなんでもないのよ。おとしめてるわけじゃない。気負わなくても大丈夫よ、ということ」
「先輩は、なにを知っているんですか。全てを見通しているかのようにみえます」
「DVも、『個別化の原理の障害』なのでしょうね。自分と他人の境界線があいまいだから、気にくわないことに過剰反応する。言い換えれば〈自分の言うとおりにならないのがムカつく〉。これも、病気よね。でも、DVをしてる人間の大半には『病識』が、ない」
「先輩のお話、難しいですよー」
わたし、ちょっと泣きが入る。
今のわたしも、そして先輩も、服装はうちの学校の制服だ。
話しながら補導されないかとびくついている。
でも、あの『魔物』を二体殺したことについては、なんとも思わない。
でも。
「これから、どうしよう……」
先輩は、ふむ、と頷いてから、
「一緒にネットカフェに泊まりましょう」
と、満足げに言い、頬を赤くした。
わかるんだ。それ。ネットカフェを一室借りて二人で入ると、密着しないとならないんだよね。
特に狭い部屋だと。
一緒にいたい。
だから提案に乗る。
「行きましょう、ネカフェ!」
先輩との初めてのお泊まり会は、インターネットカフェになったのだった。
ちょっと、どきどき。
商店街を歩く。夜の店がひしめき合っている。制服だから、完全に浮いちゃってる。
けど、さすがに声をかけてくるひとはいなかったので、よかった。
甘味処から外に出たとき、一匹の黒猫が走ってきて、にゃーん、と鳴いて、あさり先輩の肩の上に乗った。乗ったらまた、にゃーん、と鳴いた。
「せ、先輩になついてますね。……飼い猫ですか、先輩の?」
「違うわ」
先輩は猫のあごをなでる。
「この黒猫は、千鶴先生よ」
「はい?」
「いや、だから、この猫は千鶴先生よ」
先輩によると、夜の偵察には、黒猫の姿が一番、情報収集率がよいのだという。
黒猫が本当に千鶴先生なのかはさておき、ネットカフェに猫を連れながら入った。
ペットは入れないっすよー、と店員に言われると、先輩は、
「ペットじゃないわ。これはうちの保健の先生よ」
と、主張する。
押し問答が始まり、しばらくすると、店員が折れた。
「わーったよ。しもの面倒は見れるんだろうな」
「大丈夫よ」
「わーった、わーった。入れてやるよ」
わたしは、
「ありがとうございます!」
と、店員に頭を下げた。
「お嬢ちゃんの方に免じて、だな。この素行の悪そうな眼鏡マフラーは信用ならねぇ」
「入れるなら、行きましょ。部屋を用意して」
「はいよ」
わたしたちは、深夜パックを選び、朝までネカフェにいることにしたのだった。
……ここで叙述トリック。
なんで店員さんは猫を許可したでしょうか。
答え。
店員はバイトの、田中くんで、知り合いだったから。
クラスメイトの不良行為にも似たネカフェのお泊まりを、バイト禁止の中バイトしている田中くんは許可したのだった。
「で、田中くんは病院に行ったのかな」
わたしが尋ねると、
「ああ。病院に行った。行く前、学級裁判が行われたよ。岡田も主犯として親を学校に呼ばれることになったし。桜田は帰ってこないけどな。……かわいそうといや、まゆゆ、おまえといつも一緒のみかって奴が、岡田が悪者扱いされて泣いてたぜ。学年主任の英田が乗り込んできて岡田を悪者として扱ったから、みんな英田の学年主任って肩書きにびびってうんうん頷いて岡田が悪いことになって、その彼女であるみかって子が泣いた。泣いたけど、みんな素知らぬふりさ。学級裁判にかけて学年主任の英田を連れてきたほどの奴らだったからな」
田中くんは歯が抜けた口で笑う。
「たいした出来事でもないさ」
嬉しそうな笑顔の田中くんだった。