第4話

文字数 1,666文字

     ☆☆☆



 朝、起きると、わたしは金ぴかに光る金属製の銃を抱いて眠っていた。
 銃には『アンラ・マンユ』と名前が彫られている。カタカナで書いてあってダサい。
「具現化してやったよ、ご主人」
 声は直接脳内に響くが、どうもこの銃の正体はアンラ・マンユらしい。
 布団のそばにはセーラー服がたたんで置いてある。これを着ろ、ということだろう。わたしは遠慮なく、着替えさせてもらう。
 銃はホルスターもついてたので太ももに装着してそこにしまう。
「うーん、良い目覚め!」
 わたしは社務所から出て、手水で口をゆすぐ。
 それから神社の社殿へ。
 扉を開けると。
 そこは血の海だった。
 無言の、血の海。
 ここに〈声〉はない。届かない。神前がゆえに。
 神主さんがうつぶせに倒れ、首から血を天井まで吹き出している。
 昨日、あんなに話し合ったあの巫女さんは、内臓が外に飛び出している状態で倒れている。
 そして、ご神体の鏡を見ている、青いドレスを着た女の子が、ゆっくりとこちらを向いた。
 沈黙が弾ける。
「ごきげんよう。魔法少女のバトルフィールドへようこそ。わたくしは魔法少女のきらり。供物は捧げたわ。そこの神主と巫女の生き血。ほら見て。ご神体がこんなに喜んでいるわ」
 うふふ、と口をゆがめる魔法少女きらり。
 きらりはウェーブのかかった髪をかき上げると、わたしを見て目を細めた。
「あら。嬉しそうじゃないわね。お互いが共鳴し合う魔法少女だからこそ、わたくしはあなたのいる位置がわかったのよ。嬉しそうにしなさいな。同胞じゃない」
「違うッ」
 わたしは叫んでいた。
「わたくし、あなたには感謝してるのよ。ギルドの食料が底を尽きたから、どこかを襲撃しなくちゃならなかったの。そこに、この村があったでしょう。しめ縄で結界を張ってたから気づかなかったけど。ここの備蓄倉庫、品揃え抜群だったわよ」
 わたしは戦わなくちゃならない。
 そう思った。
「最高善を標榜する魔法剥奪者を駆逐するために、魔法少女は戦わなくてはならない。シリアルキラーの魔法剥奪者は増殖する。完全排除しなくちゃならなくて、完全排除がどれだけ難しいか、わかるでしょ、二十年間続いた『地下鉄戦争』での惨敗で」
「に、二十年間……っ?」
 夏祭りから三日って、アンラ・マンユは言ってたのに。
 わたしは自分の顔を触る。特にしわが増えているわけでもない。
 それに新しく出てきた単語『地下鉄戦争』って?
「お話は終わりよ。さ、行きましょ、因果魔法少女ギルドへ」
「わたしはあなたを許さない」
「可愛いわね、あなた。犠牲はつきものよ。憑き物、と言った方がいいかしら。因果は応報する。悪因悪果だったのよ、こいつらは。悪が悪を生んだ。いえ、違うわね。魔法少女は『魔』だから。その逆なのかしらね……、うふふ」
「ふ、ふざけないで!」
 わたしは両手を前に突き出す。『まゆゆアロー』を使えれば!
 わたしは意識を集中する。魔法の力を使うために。
 ……しばしの沈黙。
 なにも起こらない。
 そうだった。充電しないといけないんだった?
 それと、信じる心?
 
 沈黙のあと、きらりは盛大に吹き出した。
「あら、あなた『性的不能』ね! 魔法少女性的不能者! うふふ、あはっ、きゃははははは」
 腹を抱えて笑うきらり。
「その分じゃあなた、処女ね。殺人処女」
「違うわ!」
「じゃあなに? 怖くなっちゃったのかしら? 魔を解き放つのが? 裸の魔のエネルギーを見せるのが! 傑作ですわね! かーわいい」
 血だまりの神社。
 対峙する殺人者。
 わたしは震えが止まらない。
 わたしが一瞬目を閉じる。
 と、きらりが放つ、圧縮した冷感の空気圧がみぞおちを直撃した。
 咄嗟のことでわけもわからず、胃の中のモノを吐き出しながら、わたしの視界は閉じた。
 笑い声がこびりついて離れない。
 その笑い声はきらりのものだったかもしれないし。
 アンラ・マンユのものだったかもしれない。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み