第9話

文字数 1,485文字

     ☆☆☆



 魔法少女といえば、それは幼い頃からの憧れだった。
 美しいドレスに身を包み、魔法の力で悪者を退治する女の子。
 それはテレビの中だけの存在だと思っていたけれど、違うのだった。
 魔法少女は〈感染〉して、なるものだった。
 魔法少女になりたいという想いが、魔法少女にするのだった。
 学校にシリアルキラーが突如出現してしまったとき、わたしは感染し、模倣した。魔法少女に。
 それはシリアルキラーの田中くんと同じだった。
 ……ように思う。
 あのとき感染して同時多発的出現をしてしまった魔法少女と魔法剥奪者。
 魔法少女は悪者を退治するために現れる。
 それは本当だった。
 でも、どうやら魔法少女は負けてしまったらしい。
 その代償に、この世界は変わってしまった。
 でも、魔法少女は悪で、シリアルキラーである魔法剥奪者は善、だという。
 わたしはそれがよくわからない。
 善も悪も、暫定的に言葉をつけているだけのように思われる。
 だとしても、勢力がわかれていて争っているのはわかる。
 だけど、一般のひとたちはどうなっているのだろう。
 みんなはどうしているだろう。
 世界が変わったら、当然ライフスタイルも変わる。その中で、善と悪の板挟みになっているひとたちはどうしてるのだろう。
 ていうか、ここはどこ?
 わたしはなにもわからない。
 納得はしてる。だって現実だから。
 でも、わかってない。
 わかる必要があると思う。
 疑問をぶつけてみる?
 でも、誰に?
 このギルドの建物にいるひとたちは信頼できるの?
 魔法少女はモジュール。
 部品。一部なんだ、全体の。
 なのに、通じ合えてない。
「当然だろ。あんたと強力に繋がっているのはこのおれ様だからな、ご主人」
 脳内にアンラ・マンユが割り込んでくる。それは一種のテレパシーのようで。
「他の奴とあんたは違うんだ、ご主人」
 それってどういうことなの?
 アンラ・マンユはそこで沈黙する。なにも教えちゃくれない。
 いや、教えられないほど教えてくれているのかもしれない。
 ただ、その教えが断片的なだけだ。
 すべてはブラックボックスにあって、全体を俯瞰することなんてできなくて、断片から予想するしかない。
 それは、もとにいた世界だって同じことだ。
 なぜなら、それは〈問い〉でも〈問題〉でもないから。
 生きるということはクイズゲームでもなぞなぞでもない。
 生きるってことと問いに応えるってことは、同義ではない。
 問いを残したまま、ひとは死んだりする。
 因果律は原因があって、それに対する結果がある。
 たぶん、ここが『因果魔法少女ギルド』と名乗っているのは……。
「そうだよ。魔法剥奪者に負けて『神託堕胎』を起こしてしまったという『因』があって、世界が『結果』こうなってしまったという、そこからあいつらは『因果』という名前をつけている。もっといえば、この時点から巻き返すという『結果』は、『善因』をもっている魔法少女には当然起こることであり、そのために戦うっていう意志の表れでもある。だがご主人。そんな頭の中で考えても仕方ねーぞ。世界はもう、おまえと無関係じゃない。眠りから覚めてしまったあんたにゃな」
 ……わたしは、見なくてはならない。
 この現実を。
 見て、決め、実行する。
 それは〈自分なりに問いに応える〉ことだ。
 問いは常に、〈個人的〉なものでしかあり得ないから。全体が見えない仕組みになっている以上、そうするしかないから。
 さあ、もう朝だ。


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