第2話

文字数 3,058文字

     ☆☆☆



 高速の光の弓矢でモンスター化した田中くんをひと突きに貫いた私は、その場に倒れた。
「まゆゆ!」
「あんた、魔法少女だったの!?」
 さなえとみかが、私に駆け寄ってきて、倒れている私に声をかける。
 魔法少女のドレスを身に纏ってモンスターを倒した私は魔法が解け、気を失う。
 私、拡散性・魔法少女まゆゆ。
 全世界に散らばる魔法少女のひとり。
 役目を終えて、眠りに就くところ……。ひとまず、おやすみなさい。


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「よぉ、目が覚めたか、ご主人」
 誰だろう、視界がぼやける。
 夏のはずなのに、暗くて冷たい空気に満ちている。どこかのお屋敷っぽい。
 夜の洋館。
 私は自分の手を見る。
 魔法少女の白い手袋は消えている。服装もセーラー服だ。
 倒れていた私は、静かに身体を起こす。私が寝ていたのは、広くて電気の付いていない部屋のソファの上だった。
 なんだか深窓の令嬢みたいな気分になる。
「あんたもよくやるよ。今回の『夏祭り』では、あんたがトップだ」
「トップ? トップって?」
「おいおい、見知らぬおれといきなり会話始めちゃって、あんたちょっとおかしいぜ。話しかけたのはおれだがな」
 頭痛のする頭を押さえる。
「それもそうね」
「善と悪の二元論、その二大原理の二組にわかれて、『覚醒因子』が世界中にばらまかれた。『善』は、あんたんとこではあんたのクラスメイトをシリアルキラーにして浄化作戦の一端を担ったし、『悪』は魔法少女となって、モンスター狩りをした。それが同時多発的に行われた」
「なにを……言ってるの?」
「あんた、おれが見えるか」
 見えない。ぼやけて、輪郭があやふやな人物。爬虫類のように長い舌を出しているのだけがわかる。
「見えないだろ」
 きひひ、と声の主は舌を揺らして笑う。
「ここ、どこ?」
「どこでもないさ。どこでもあって、どこでもない場所。有名な漫画で言うなら、精神と時の部屋だ。あんたが『夏祭り』で魔法少女でのトップの成績を叩きだしたから、おれが会ってやってるってわけ。わかるか?」
「わからない、さっぱり」
「おれはアンラ・マンユ。殺意が全開になったおれはR18に抵触しそうなほど壮絶な魅力を持つような、『アンチ・ヒーロー』さ。ご主人。おれはあんたの手足となり、あんたもまた、おれの手足のような存在となる。全世界に拡散した魔法少女はリゾームの結束点にしか過ぎないが、あんたはその中でも特別だ。精々、優越感に浸ってから死ね」
 アンラ・マンユと名乗ったその影法師は、私の身体と重なり合う。
 そしてわたしは彼を自分の中に『取り込んだ』。


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 起き上がると、今度は病院の病室の中だった。
 女性の看護師さんが、
「あら、お目覚めね」
 と、笑顔でそう言った。
「もう、三日も眠っていたのよ。学校のお友達も、何回もお見舞いに来てくれたみたいなんだけど……」
 友達。さなえとみかのことかな。
「あなたは破滅の演舞を『夏祭り』で行ったから、後夜祭になった今は……」
 私はさっと病室のベッドから転がるように飛び起きる。
「今度はあなたが死ぬべき『悪』なのよ!」
 ずっちゃーん、とハサミがベッドに突き刺さる。回避した私は、転がり続けて距離を取り、立ち上がる。
「どういうことなの!?」
「世界は最高善に染まるべき。最高であるのならば、悪は世界から一掃されねばならない」
 私の脳内で声がする。
(まゆゆ。わかるか? 目覚めたらゲームスタートってことになってんだ。起きてる時にひどい苦痛を味わせて殺すのが、こいつらの目的だ)
「ええ? じゃあどうすれば。あ。変身ね! 魔法少女に」
(なれねーよ)
「ええっっっ? どうして?」
(理由より、この場を切り抜けろ、ご主人)
 看護師は刺さったハサミをベッドから引き抜くと、呼び出しブザーを押した。
 すると間を置かずに、その数、十人におよぶ看護師や看護助手などが飛び出してきた。

 ぴーーーーーーーんち。

 と、そこへ咆哮がこだました!
 私の影から大量のキムワイプ(紙タオルみたいな奴)が吹き出てきて、看護師達を襲う竜巻となった。
「ギ、ギ、ギムヴァイプがオグジニ」
 呻く看護師たち。キムワイプが口の中に突っ込まれたのだ。みんな息切れで倒れていく。
(ご主人。ここから逃げろ!)
 アンラ・マンユが私の影から声を出す。
 この支援攻撃はアンラ・マンユのものだ。
「言われなくてもわかってる!」


 わたしはがむしゃらに走る。患者たちと看護師達が殴り合いをしている廊下を走って突き抜ける。


 病院玄関到達!


 私は外の世界へ出た!


 が。
 愕然とする。
 助かった気がしない。
 そこは荒野だった。
 荒れ果てた大地。ひび割れた地面。伸び放題の雑草。
「ここ、本当に日本……なの?」
(夏祭りの後、……さ)
「さっきから言ってる夏祭りってなに?」
(サツリクパーティのことさ。あんたたち拡散性・魔法少女が戦ったサツリクの宴……。で、今が……)
「神託堕胎」
 自分から、自然と口に出た。
(その通り。この荒廃は『神託堕胎』と呼ばれている。東京始め、日本は破壊された。なにがって、その精神が。時間は経ってない。あんたの友達のさなえとみかが三日前にお見舞いに来たのも本当だろう。だが日本という国は堕胎されてしまった)
 なんでそんな言葉が口をついたのだろう。魔法少女の力かな。
「見ればわかるわ」
 私は深呼吸した。
「荒廃した世界。神託堕胎……」
 アンラ・マンユは続ける。
(第一次は魔法少女側が勝利した。だが、次の遠征で、最高善を標榜する奴らが勝った。それにより、現実空間の位相が変わってしまったんだ。それを、『神託堕胎』、と呼ぶ)
「…………」
(なぁに。夏祭りの時にやんちゃして、できちゃっただのできないだの言って、堕ろされちまったのさ、この国自体が。ただ、それだけのことだ。気に病むことじゃねぇよ、ご主人)
「でも、どうしたら……」
(第二次の戦いでは、善が勝った。じゃあ、次で巻き返せばいい。戻せるさ。死ななきゃ道はある)
 わたしは様変わりした街の様子を見る。これはもう、街とは言えなかった。こんな大破壊が、スイッチのオンオフみたいにしてすぐに行われるなんて。
(位相レベルが変わるってのは、こういうことだ。仕方がない。それよりも、結束点同士であんたはまだ他の魔法少女と繋がっている。コネクトされてる、接続されてる。だから探すんだ、仲間を)
「そんな。わたしには無理……だよ」
(ご主人。あんたならやれると思って、おれが守護してんだ。大船に乗った気持ちで行け。そこらへん歩いてりゃ互いに共鳴しあうからよ。GOだ!)
「は、はぁ」
 わたしは歩く。歩いてると勝手に共鳴するっていうから。
(なぁに。捨てる神あれば拾う神あり。おれが拾ってやったんだ。マジックポイントのゲージがたまればまた魔法少女に変身できるぜ)
「え? ほんと?」
(さぁてね。自分の目で確かめろよ。おれたちゃ悪だ。悪魔的所業で、この国を元に戻そう)
「……わかった」
 魔法を使うんだから、よく考えれば『魔』よね。悪……か。


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