第22話

文字数 1,039文字

     ☆☆☆



 どさっと保健室のベッドに倒れ込む田中くん。シューズは履いたままだ。
「駄目だった……」
 呟く田中くんは涙目だ。
「桜田は退学処分だ」
 キーンコーンカーンコーン。
 間の抜けた、チャイムが鳴る中で。
 田中くんは、泣いていた。
「石原、絶対ぶっ殺す!」
 泣きじゃくりながら、田中くんは拳を固める。
 あきれた、って顔をして、あさり先輩は田中くんと向き合う。
 立ち上がり、ベッドを見下ろすかたちだ。
「石原の前に、あなたがぼこぼこにされてちゃ話にもならないわよね」
「くっそ!」
 わたしは咄嗟にはこの話がどういう経緯だったか思い出せず、少しタイムロスをしたが、考えたら、「ああ」と、納得できた。自分なりに。
 数学教師・石原は、同級生である、つまり中学二年生の女の子、桜田さんと男女の肉体の関係を持った。
 が、石原は理事長の息子なので、事態をもみ消した。
 それは成功したから、今も石原は数学の教師として、この学校にいる。
 一方の桜田さんは、後ろ盾がいなかったのだろうか、それとも自主的に去ろうとしたのだろうか、わからないが、退学することになった。
 教師と関係を持った女、というレッテルを貼られたまま、学校を去るしかなかったのだ。
 きっとどこかに転校というかたちになるのだろう。
 まだ義務教育は終わっていない。
 終わってないからこその問題なんだけど。

 憤る田中くん。
 田中くんと桜田さんの間柄は、どうなっていたのだろう。
 休学していたわたしにはわからない。
 休学していなくたってわからないか。
 わたしは、本当に『そういうこと』に疎く、弱い。
 わかるのは、本気で田中くんは桜田さんを気にかけていた、ということだ。
 そうじゃなきゃ、泣いたりなんかしない。
「おれにも、物理的にぶっ殺せるような強い武器があればッ」
「武器に依存しようとしてる? 徒手空拳で立ち向かいなさいよ」
 見下ろしながら、あさり先輩は腰に手を当てて、身体を若干曲げる。
 身体を曲げてのぞき込まれた当の田中くんは、まだ泣き止まない。
 ここは保健室で。
 わたしたち三人しかいなくて。
 だからきっと思い切り泣けるんだと思う。
 ならば、気が済むまで泣かさせてあげようよ。
 わたしはあさり先輩に声をかけようとしたが、先輩はそれより早く、横長もふもふソファへとダイブした。
 制服なのでぱんつは丸見えだが、わたししかそのぱんつは目撃しなかった。


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