第23話
文字数 1,601文字
☆☆☆
「その傷、誰につけられたの? まさか石原ってわけでもないだろうし」
あさり先輩が田中くんに質問していると、ドアを開けて、保健医の千鶴先生が入ってきた。
白衣だ! それでいてみかより背が低い。
みかより背が低いってのは、中学生の低身長より背が低いということだ。
すごい。
すごーい。
白衣の美人保健医千鶴先生のお出ましに、田中くんも泣き止む。
先輩はソファでもふもふしている。
そういえば保健室登校でも勉強してて偉いな、と思ったあの気持ちはどこにいったのだろう。
なんだか先輩がフリーなウーマンに見えて仕方がない。
自由人・沖田あさり。
……ひとのことは言えないかな。
わたしも、チャイムが鳴ったのに、保健室にいるし。
「あんたら、ここを大遊戯場だと思い違いをしてはいないでちか」
ぷんすか怒って、千鶴先生が地団駄を踏む。
仕草まで幼そう。
思わず頭をなでてみたくなってしまうのをこらえるのが大変だ。
千鶴先生の白衣ルックスが猛威を振るう。
かわいさオーラを発生させてる。
「少年、おまえは特に重傷でち。歯が抜けて血が出てる。どう考えても病院行きでち。青あざだらけの顔なんて、どう説明して責任逃れできるか、よほど考えなきゃ無理でち。どう頑張っても学校の不始末でちよ」
ソファの周囲をぐるぐる回りながら、頭を抱える千鶴先生。
「で、それは誰にやられたんでちか」
ベッドの端に座り、ベッドに横たわる田中くんに訊く。
「無理して言わなくてもいいでちよ。しがらみもあるでちょうち」
「はんッ。攻撃した相手が見つからない方が学校にとっては都合がいいもんな。そりゃ言わなくてもいい、なんて言うよな。ハッ」
吹き出す田中くん。
「クラスの連中ですよ。よってたかって、ぼこぼこ。毎度のことだけど、今日は桜田の一件があるから、容赦なく気晴らしの種にされちまった」
なんとも言えない不穏な空気が場を支配している。
あさり先輩はもふもふを終えると、トレードマークのマフラーと眼鏡を直して、姿勢を正した。
誰にみせるでもなく、ただ、姿勢を正す。
姿勢を正して、目を閉じた。
話を聞く体勢ともいえる。
「主犯は岡田っていう生徒。学級委員をやってる。そいつに右習えして、みんなでおれをボコりやがった」
「ああ、桜田ちんの件でちか。残念でちたね。自主的に、学校を去ることにしたって、朝の職員会議で聞きまちた。で、そこの歯抜けは岡田っていう生徒……説明通り、あのクラス委員やってる、あの岡田でちよね。わたしも知ってるでちよー。……残念でち。非常に残念でち。理事長の息子に力があるように、クラス委員も、信頼を勝ち取った人間でち。歯抜けは涙をのんでこの社会の仕組みに歯ぎしりするしかない……けど、その歯が抜けてりゃ歯ぎしりも無理でちね。げらげらげら」
うーん、グロかわいいとは、千鶴先生のことを言うのだろう。
言動はひでぇ。が、ありあまる幼児体型。
子供だからの残酷さに近いなにかを感じる。
「おれ、どうすればッッ」
「あー、まずおまえ、病院送りでち。この時間手の空いてる教師を用意しますでちから、おとなしく市内の病院へ行くでち」
千鶴先生が白衣をくるりひるがえし、こちらを見る。
「で。おまえの方はチャイム鳴ったんだから教室に戻るでち。……また戻ってきてもいいでちよ、休み時間なら。小娘。手首の傷について、訊きたいこともあるでちからね。おっと、そんな風に言うと、もう来ないでちか」
先輩が話を遮るように一言。
「また、会いに来てくれるよね、まゆゆ」
「もちろん」
そう答えるしかなかった。
「まゆゆっていうんでちか。知ってたでち。手首自分で切ってりゃ気が収まるなんて幼い考えはそろそろよすでちよー」
わたしは背を向けつつ手を振り、保健室を去った。
「その傷、誰につけられたの? まさか石原ってわけでもないだろうし」
あさり先輩が田中くんに質問していると、ドアを開けて、保健医の千鶴先生が入ってきた。
白衣だ! それでいてみかより背が低い。
みかより背が低いってのは、中学生の低身長より背が低いということだ。
すごい。
すごーい。
白衣の美人保健医千鶴先生のお出ましに、田中くんも泣き止む。
先輩はソファでもふもふしている。
そういえば保健室登校でも勉強してて偉いな、と思ったあの気持ちはどこにいったのだろう。
なんだか先輩がフリーなウーマンに見えて仕方がない。
自由人・沖田あさり。
……ひとのことは言えないかな。
わたしも、チャイムが鳴ったのに、保健室にいるし。
「あんたら、ここを大遊戯場だと思い違いをしてはいないでちか」
ぷんすか怒って、千鶴先生が地団駄を踏む。
仕草まで幼そう。
思わず頭をなでてみたくなってしまうのをこらえるのが大変だ。
千鶴先生の白衣ルックスが猛威を振るう。
かわいさオーラを発生させてる。
「少年、おまえは特に重傷でち。歯が抜けて血が出てる。どう考えても病院行きでち。青あざだらけの顔なんて、どう説明して責任逃れできるか、よほど考えなきゃ無理でち。どう頑張っても学校の不始末でちよ」
ソファの周囲をぐるぐる回りながら、頭を抱える千鶴先生。
「で、それは誰にやられたんでちか」
ベッドの端に座り、ベッドに横たわる田中くんに訊く。
「無理して言わなくてもいいでちよ。しがらみもあるでちょうち」
「はんッ。攻撃した相手が見つからない方が学校にとっては都合がいいもんな。そりゃ言わなくてもいい、なんて言うよな。ハッ」
吹き出す田中くん。
「クラスの連中ですよ。よってたかって、ぼこぼこ。毎度のことだけど、今日は桜田の一件があるから、容赦なく気晴らしの種にされちまった」
なんとも言えない不穏な空気が場を支配している。
あさり先輩はもふもふを終えると、トレードマークのマフラーと眼鏡を直して、姿勢を正した。
誰にみせるでもなく、ただ、姿勢を正す。
姿勢を正して、目を閉じた。
話を聞く体勢ともいえる。
「主犯は岡田っていう生徒。学級委員をやってる。そいつに右習えして、みんなでおれをボコりやがった」
「ああ、桜田ちんの件でちか。残念でちたね。自主的に、学校を去ることにしたって、朝の職員会議で聞きまちた。で、そこの歯抜けは岡田っていう生徒……説明通り、あのクラス委員やってる、あの岡田でちよね。わたしも知ってるでちよー。……残念でち。非常に残念でち。理事長の息子に力があるように、クラス委員も、信頼を勝ち取った人間でち。歯抜けは涙をのんでこの社会の仕組みに歯ぎしりするしかない……けど、その歯が抜けてりゃ歯ぎしりも無理でちね。げらげらげら」
うーん、グロかわいいとは、千鶴先生のことを言うのだろう。
言動はひでぇ。が、ありあまる幼児体型。
子供だからの残酷さに近いなにかを感じる。
「おれ、どうすればッッ」
「あー、まずおまえ、病院送りでち。この時間手の空いてる教師を用意しますでちから、おとなしく市内の病院へ行くでち」
千鶴先生が白衣をくるりひるがえし、こちらを見る。
「で。おまえの方はチャイム鳴ったんだから教室に戻るでち。……また戻ってきてもいいでちよ、休み時間なら。小娘。手首の傷について、訊きたいこともあるでちからね。おっと、そんな風に言うと、もう来ないでちか」
先輩が話を遮るように一言。
「また、会いに来てくれるよね、まゆゆ」
「もちろん」
そう答えるしかなかった。
「まゆゆっていうんでちか。知ってたでち。手首自分で切ってりゃ気が収まるなんて幼い考えはそろそろよすでちよー」
わたしは背を向けつつ手を振り、保健室を去った。