サンクトペテルブルクのパラドックスと効用関数

文字数 1,298文字

 ベルヌーイが発表した論文のなかには、サンクトペテルブルクのパラドックスと呼ばれる問題を扱ったものがある。
 この問題で扱われるゲームは、獲得できる金額の期待値が無限大に発散するゲームであり、参加費を期待値と比べて決定しようとすると、現実的な意思決定とは異なる意思決定になってしまうのである。
 これに対して、期待効用仮説という考えで説明がなされているが、人間の満足度を無差別に計算できる効用関数などというものは存在するのだろうか。

 コインを投げるゲームを考えよう。このゲームでは、表が出続ける限りコインを投げ続け、裏が出るとゲームが終了する。1回目に裏が出たら終わりで2ドルもらえる。1回目に表が出たら、もう1回コインを投げ、裏が出たらそこで終わって4ドルもらえる。こんな感じのゲームなので、29回表が出た後、30回目に裏がでた場合には、10億ドルをこえるお金をもらうことができてしまうのである。

表の回数:0回    1回    2回    3回   ・・
確率変数:2ドル   4ドル   8ドル   16ドル ・・
確率:  1/2   1/4   1/8   1/16 ・・

 このゲームにおける金額の期待値を計算すると次のようになる。

1/2 × 2 + 1/4 × 4 + 1/8 × 8 + ・・ = ∞

この結果から、期待値と参加費を決める場合には、いくらでも金額を大きくしてよいことになってしまうのである。これはリアルな感覚からはずれた意思決定であろう。
 これは困った、かどうかは知らないが、数学者や経済学者は期待効用仮説なるものを考えだし、この現象を説明しようと試みた。それによると、人間の満足度を測る関数である効用関数は、傾きがだんだん小さくなるような √x や log x のようなものだと考えられる。このゲームで得られる賞金に対する効用を U=√x という効用関数で計算するとつぎのようになる。

金額    2     4     8     16
効用 U   √2    √4    √8    √16

効用の期待値は次のようになる。

1/2×√2+1/4×√4+1/8×√8・・

これは公比が √2/2 であり、-1より大きく1 より小さいので次の値に収束する。

√2/2÷{1-(√2/2)}=1+√2

ここから、ゲームに参加する金銭的価値を、効用関数から求めると次のようになる。

x=(1+√2)×(1+√2)=5.8284・・

 経済学は、ベルヌーイという非凡な才能の持ち主によって見出されたサンクトペテルブルクの問題を、効用関数を用いてこのように説明するのであるが、人間の満足度などというよくわからないものを表す効用関数を特定することなどできるのだろうか。どこまで正確に測れるようになるのか知らないが、少なくとも、上記のような効用関数では不十分だろう。
 たとえば、上の問題で用いた効用関数で計算すると、4円で U=2、16円で U=4、64円で U=8などとなるが、64円もらったとき、4円もらったときと比べて3倍大きい満足度を感じたと実感できるような人間は現実に存在するとは思えない。
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