随想 市川沙央さんの授賞

文字数 584文字

 先日、市川沙央(いちかわさおう)さんが著名な文学賞を授賞されたことを知った。昨年の夏、つまり2022年の夏、当事者作家がいないことを問題視し、また強く訴えたいことがあり、はじめて純文学の作品をお書きになったそうだ。2023年の春に大学をご卒業されているので、「障害者表象と現実社会の相互影響について」と題する卒業論文と並行して執筆されていたのかもしれない。
 『ハンチバック』と題する授賞作品には、次のような文章が記されている。

私は紙の本を憎んでいた。目が見えること、本が持てること、ページがめくれること、読書姿勢が保てること、書店へ自由に買いに行けること、5つの健常性を満たすことを要求する読書文化のマチズモを憎んでいた。

たしかに、自由に本を読み、文章を書くのは、さまざまなバリアを乗り越えたうえでの行為である。読書文化の表象と、それに対する当事者の率直な思いの表出は、思いを同じくする当事者の代弁でもあり、切実な訴えに心動く人も多いのではないだろうか。自分にはバリアと意識しないものが他者にとってはバリアになりうることを改めて意識させられる。
 ニコニコ動画で授賞会見の予習をし、「この半年、感情がない。今なら、すご腕のスパイになれると思う」とユーモラスなこともおっしゃっていたが、市川さんが望む読書バリアフリー環境の整備がすすみ、当事者文学その他の作品が執筆されることを期待したい。
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