随想 たぶんエリオットの詩想について

文字数 797文字

 イーグルトンの『文学とは何か』を読んでいると、エリオットの詩想についての解説だと思うのだけれど、惹きつけられるパッセージに出会った。

詩人は、「人間の深奥にある恐怖や欲望まで到達する触手のような根の網状組織」をもつ言語、あらゆる男女が等しく体験する「始原的な」レベルにまでわけ入ることになろう暗示的で謎めいたイメージ群を、選ばねばならない。有機体的社会はまだ死に絶えたわけではあるまい。それは集合的無意識の中にかろうじて生きのびている。歴史によって変えられることのない魂、原型の中には、意味深長なシンボルや律動が秘められているはずで、詩はそれに触れそれを復活させることができるかもしれない。(『文学とは何か』 p.64)

 エリオットの詩想の解説が適切かどうかはわからないし、ユングやフロイトの影響でも受けているんだろうかとボンヤリ考えてみたりもするのだけれど、何はともあれ、集団、民族、人類の奥にあるといわれる集合的無意識を探り、その直観を、詩という言語メッセージで伝えるという発想がおもしろいと思った。岩波から出ている『精神分析入門講義』でも読んでみようか、という気分にもなった。

追記

 宮沢賢治が書いたとされる、童話集の広告には、次のような文章があるらしい。

これらは決して偽でも仮空でも窃盗でもない。
多少の再度の内省と分析とはあつても、たしかにこの通りその時心象の中に現はれたものである。故にそれは、どんなに馬鹿げてゐても、難解でも必ず心の深部に於て万人の共通である。卑怯な成人たちに畢竟不可解な丈である。

心の深部における万人共通のものが何を意味するのか、アカデミックな世界でどのように解釈されているのか知らないけれども、心理学や精神分析学に親しんだことのある人なら、深層心理や集合的無意識といった語句を想起させる文句だろうと想像する。賢治はエリオットと詩想を共有していたのだろうか・・・。
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