第21話 やればできるのだ

文字数 1,186文字

 慎重に進めないと後悔するのが趣味の模型作りだと思う。夏休みの工作や、そこら辺の書類のような締め切りがない、というのはそういうことだ。ところが自らの希望とは言え、このレイアウト制作に期限が出現しつつあった。作業日を計画的に定めねばならないし、購入すべきものはさっさと揃えておかなければならない。
 更に、これも自ら招いた障害なのだが、この頃小学三年になった息子はキャッチボールと野球の真似事に夢中となっていた。そもそもスキンシップ的な遊びをしたいと思い立ち、自身のものも含めグローブとボールを買ったのが約一年前。少しずつ上達するのが楽しいのだろう、こちらに来れば即キャッチボール。わざわざ新幹線に乗って一人で来るような日もあった。車中でお姉さんに可愛いと言われ照れながら自慢する姿に、彼の成長を感じたりもした。それはともかく、家族が来てもレイアウトで遊ぶ時間が減ってしまったことは、我が家におけるNゲージの地位が低下している証拠なのだ。

 そこで仕事と休暇のスケジュールをより綿密に立てるようになった。当番を組むのは実は自分だったので、意外に時間が取れる。自宅での一人酒が確実に減った。すると週一日程度は作業に充てられるようになった。人は本気になると変わる。これを仕事に活かすべきだと思ったが、思うだけにしておいた。

 懸案の空き地、まずは②である(第19話参照)。駅を正面にして、踏切を渡って奥に延びる舗装道路の周辺。これは川の手前にそびえる禿山(はげやま)に繋がっている。禿山は川の塗装に備え樹木をまだ植えていない状態を指しており、決して自分を揶揄(やゆ)しているのではない。禿山の手前からは未舗装道路、すなわち紙ヤスリを不揃いに切り貼りしたものが連なる。終点は幅をすこし広げておく。川遊びに行くなら、ここに車を停めましょう、という想定。(ふもと)には畑を作ってあるが、その手前が問題だった。ここは市販されている建設中の戸建てを用意した。朝の設定だったはずだが、大工さんの人形があったので衝動買いし、配置する。やはり人形を置くと、躍動感が出る気がする。そして、カーブレールの内側にある地主宅も含め、近所の生活を空想した。そして、気付いた。この街、電気はどうしている?
 水には気を回していたが、電気については考えていなかった。いや、電化された鉄道、ということで架線柱にこだわっていたのは、誰だ? 他人に非難されたりはしないミスだが、だからこそ悔しい。が、話は簡単だ。電柱を設置すればよい。これも通販MNを覗けば即購入可能だった。ちょっと古いタイプの木製電柱を選び、レイアウトボードに突き刺していく。倒れないように木工用ボンドで土台を固めることは忘れない。夜間用の照明も何か所かに設置し、ようやく街らしさが出たように思った。そしてこれを書きながら今更気付く。せめて舗装道路にはマンホールの蓋を作ろうか……。
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