第3話 機関車も夢想する

文字数 1,193文字

 そこまで妄想すると、今度は車両が欲しくなる。イメージした緑一色の景観に映える車両が欲しい。まずは、我がブルートレインを牽引するのに相応しい機関車が欲しい。手持ちの客車は二四系だが、正確には二四系二五形と呼ばれるもので、自分が子どもの頃は主に東京大阪から九州方面に向かう寝台特急に使用されていた。始発の機関車は、青いEF六五。下関でステンレスボディーのEF八一(三〇〇番台)に替わり、門司から先の交流区間は赤いED七六。これが代表だが、僕の記憶では北陸本線で「日本海」を引いたローズピンクの凄い奴EF八一、山陰本線で「出雲」を引いた大型ディーゼル機DD五一も格好いい。果たして、緑に最も映えるのはどれだ? 
 機関車となると、息子の意見も聞かねばなるまい。次の日に電話をした。あの青い客車に似合う機関車の色は何がいいかな? すこし考えて息子、赤が良い、と宣う。緑の草原を、赤い機関車が青い客車を牽引して力走する姿を想像する。そうだ、すごく似合うぞ。美的センスありだ、息子よ!
 ということで、交流電気機関車ED七六、バランスが美しいディーゼル機関車DD五一、そして交直両用のEF八一。この三つから一つ選ぶことにした。仕事中もこれらの写真を検索し、眺めて夢想していた。仕事しろ、こら。
 茶色のDE一〇というディーゼル機関車をすでに持っているので、DD五一には今回遠慮していただくこととし、二択に絞る。九州か、北陸か。人生の選択のような気分になる。結局子ども時代を過ごした北陸を選んだ。真っ赤なボディーではないが、青い寝台客車とも、まだ見ぬ緑の景色ともよい対比を成すだろうと容易に想像できた。早く欲しいし、作りたい!

 そして休日、街へ出た。大型ショッピングセンターIの中に、鉄道模型専門店Pがある。もちろんこの地方都市にも個人商店的な模型店はいくつかあるようだった。しかしこうした店は、初めての客にとっては入りづらいものがある。経験上、品揃えも不確かだ。そこで、ついに全国チェーンPに乗り込むことにした。買うべきものは、レール横に並べる架線柱、レール周囲に撒くバラスト(小石)、そして電気機関車EF八一。おそらくPなら一気に揃うだろう。また工具系もあれば入手したい。なさそうならIの中にあるTハンズで物色しよう。
 この街のPには、店内の四分の一を占めるレイアウトがあった。鉄道模型界隈では、景色を再現した模型をジオラマとは呼ばずに、レイアウトと称する。ジオラマ作っているのですか? と聞かれることが後々増えていくが、この聞き方をする人は、同好の士ではない。すぐにわかる符牒だ。
 Pで見たプロのレイアウトは、やはり素晴らしい。この街の景色も再現してある。一人で来ると、自分が作ることを想像しながらじっくり眺められる。素晴らしいのだが、やはり架線柱が一本もない。自分は必ず設置するぞと誓うのだった。
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