第4話 最初の買い物

文字数 1,180文字

 あっ。今やばいことを考えたよな。レイアウトを自分で作る……。
 これは禁断の遊びである。場所も時間も、そしておカネも。全て注ぎ込んだ結果、家族(=妻)から疎まれる粗大ごみを作る。それが素人レイアウトの末路であることは、少し考えれば分かることだ。いや、考える前から、決まりきった一筋の道でしかない。

 店先で頭をブルブルと震わせ、目的のものだけを探そうとする。バラストは展示柵に引っ掛けられて何種類か並んでいた。茶色だけでなく、灰色もあり、メーカーにより微妙に色や大きさが違う。その右上には架線柱のセット。これもいくつかのメーカーが出していて、単線用、複線用、高架用など各種揃っている。草原を走る電化された単線、というイメージに合うよう、茶色のバラストとシンプルな単線用架線柱を手にした。そして、隣で僕に猛烈なアピールをしているやつがいた。信号機である。眩しいんだよ、お前!
 そう、バラストに埋まるような、実際の運行に必要なものと言えば、架線柱と信号、更には排水溝の蓋などいろいろ思いつく。バラストを撒いて固定してしまったら、後から付けていくのは難しいし、格好が悪い仕上がりになる。そうだよな、お前らも必要だよな、と手に取った。すると僕の手には持ちきれなくなってしまったので、買い物かごを取ってきてそこに入ってもらった。ああ、まだ買えるよね、これだと。
 そんな緩みが出たのだろう。草原はシートではなく、カラーパウダーという色つきの粉をボードに撒くことにして、緑と茶色の混ざったバウダーをかごに入れる。もっと鮮やかな緑のみのパウダーも追加し、表面にコントラストをつけよう。もちろん木々も要るだろう。プラスチックや針金で作られた樹木の他、苔や海草を乾燥させたライケン、スポンジ素材のフォーリッジなども続々とかごの仲間入りだ。うおー、楽しくなってきた。
 少し奥には運転制御機器が並んでいた。あれも二〇年の時を経てまだ動かせたが、この先は怪しいものだ。が、これはちょっと高いし、後回し。同じコーナーには電子制御の踏切や信号機が顔を出している。
 Nゲージも当然進化してきた。信号や踏切は電子制御化され、列車の運転と連動できるようになっている。息子と遊ぶには、景色の再現よりもこっちのほうが絶対に楽しいだろうが、かつて憧れたNゲージの世界になかったものにあまり魅力を感じなかった。これらを導入した場合は樹脂ボードに配線のための穴をいくつか開けて、裏面にコードを固定して、と更に準備作業が続く。これも興味深いが、そこまでやるか? という思いもあった。動くのは鉄道車両だけ。これが古来からの鉄道模型の鉄則である。その鉄則は守り通すことにした。だからPでの買い物はこれらとEF八一だけで止め、Tハンズで大きな木工ボンドと小皿、霧吹き、絵具筆やピンセットなどを買い揃え、帰路についた。
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