第22話 世の中の変化

文字数 1,175文字

 そして②(第19話参照)の先には、禿山(はげやま)と未塗装の川が残っている。ここは子どもたちと着色することになっていた(第17話参照)のだが、あの約束から既に半年以上が過ぎており、締め切りを意識するお父さんは一人で進めてしまうことを決心した。水面は青と緑と白の三色を使い分ける。川岸は赤と茶とをメインにする。数日後に乾燥していることを確認し、やはりプラモデル用ボンドを塗って光沢を出す。これも乾いた後に、川岸にライケンを貼り、樹木を立てる。手前の禿山もこれでようやく植林可能となった。ここまで出来たところで娘が覗きに来て、色は自分が塗りたかったと未練がましく言う。将来男を困らせるようなことになりそうだと余計な心配をしつつ謝った。あっさりと人形で遊び始めた。まあ、そんなもんか。

 あとはボード正面側、駅前から連なる①(第19話参照)である。だがここがなかなか進まない。これだ! という案が浮かばないのである。道路だけにするのは見栄え的にも、作り手的にも寂しい。が、商店街を作るほどのスペースではないし、この街にそんな大層なものは無さそうだ。小さなお店を一軒くらいは、と思ったが、その一軒がしっくりこない。またレイアウト作りも終盤となっているが、依然として高低差のない地形には不満を抱いていた(第11話参照)。これらを解決する方法……。平日日中もぼーっと思案していることが増えてしまった。

 折角時間を作ったのに、手が動かせない状態が一か月ほど続いた。そんなとき、高校生の鉄道模型コンテストの写真が目に留まった。その出来栄えにやたらと感心してしまうし、具体的な作業内容にも関心を寄せてしまう。そして学校名をみて驚く。何と、女子校が数校受賞しているのだ。そもそも僕は高校時代、鉄道模型という趣味は封印していた。暗そうだし、一層モテなくなってしまう。通う高校にも鉄道研究会(鉄研)はあったが、男数人で夜行列車に乗りに行く週末や長期休暇は想像したくなかったし、学校で模型を作って文化祭で子どもを相手にする、というのも嫌だった。それが何だと! 受賞者の写真もあったが、(まご)うことなき女子高生である。しかも想像の上をいく容姿である。それでオジサン審査員の心を掴んだのかと疑うが、作品も見事である。平成末期、世の中は大きく変わっていたのだった。我が母校の鉄研も何かの賞を取っていたようだが、これはイメージ通りの面子であった。昔と違い共学になっているそうだが、女子部員は入るのだろうか? そういえば共学の学校でも、男女が揃っている写真は少ない気がした。共学だとジェンダーが発動するので自分の個性を出しにくい、という話を聞いたことがある。我が母校の鉄研にはそっちの面でも頑張ってもらいたいものだ。とOB面するが鉄研出身ではないおじさんは、若者たちの力作を見て奮い立つ。よし、作るぞ!
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