第9話 人の姿が見えてくる

文字数 1,179文字

 自宅に戻って、レールとバラストとが固定されたボードに向き合う。四分の三については、架線柱や信号機の足元がきれいにバラストに埋まっている。美しい。空いているのは、分岐(ポイント)を中心にした四分の一。ここに置くプラットホームについては、明日職場でネットサーフィンだ。そして、まだ見ぬホームと駅舎とがそこにあるとなれば、当然人の流れを考えなければなるまい。駅があれば、職場や住居があるはず。職場は牧場だとして、まずはそこに住む従業員の社宅みたいなのが要るなあ、と思いつく。そうするとスペース的に、卵形に組んだレールの内側に配置することになる。レールの外側は中途半端な広さしかなかった。となれば、このレールを人や車が渡ることを考えなければならない。そう、踏切が必要なのだ。

 踏切と言えば以前も紹介したが、現在では列車の運行に合わせて光り、音まで出る踏切も売っている。が、やはりこれは要らない。警報機や遮断機の細かな模型は市販品があるのだが、行ってきたばかりの模型店Pでは出会わなかったはずだ。これもネット物色だな、と脳内メモ。こういうことは、きっと忘れない。そして踏切と言えば、線路の内側と外側に人や車が通りやすいように置かれる板が要る。これを軌間内舗装板、軌間外舗装板という。これらの舗装板が付いたレールも販売されているが、これを入手してレールを取り換えるのも今や煩わしい気がする。よし、自作だ。と決意し、口元を緩める。早速子どもたちが置いて行った画用紙やマジックを掘り出す。子どもの頃ゲームセンターでボタンを連打するために買った金属製の定規が、何故かずっと僕の手元にあり続けていたのだが、こいつがついに役立つ時が来た。レイアウト上で実測し、長方形を何個か画用紙に描いた。踏切一つにつき三枚。軌間内用は小さめになる。そしてこれに着色する。イメージ的に木材をレールと並行に並べた舗装板と、コンクリート製の二つ。ほら、アクリル絵の具よ、お前もすぐに出動だ。実はパレットも新調していた。お絵描き好きの娘にとられないように、きちんと隠しておかねばなるまい。ああ結局、踏切は二か所になりましたね。街の計画より前に線路回りができていく。現実と模型とは順番が違うのである。そして木製、コンクリート製ともに黄色で外枠を描く。これはマジックの方がしっかりした直線になるだろう。なので、しっかり絵の具が乾くのを待つ。その間にボードの向こう側を草原にしていこう。

 憧れの草原は、木工用ボンドを水で薄めたものを絵筆でボードに塗り付け、その上に緑と茶色が混ざったカラーパウダーを撒いて作っていく。網かごみたいなもので撒く方法が紹介されたりするが、指で少しずつ摘んで撒いていく方が調整しやすくてよい。広くボンドを塗り過ぎると、すぐに乾いてしまう。少しずつだが、草原は着々と広がっていった。
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